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TSMCは増収なのに、なぜ利益率が下がるのか――新工場と先端技術の立ち上げを読む

TSMCの増収と前四半期比の利益率低下を、利益額・新技術の立ち上げ・設備投資後の現金に分けて検証する。

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情報基準日:2026-10-18(公開日とは異なります)

情報基準日:2026年10月18日19:00 JST。決算発表は10月15日、対象は2026年7〜9月。金額は特記のない限り十億台湾ドル、連結・TIFRS。予想と独自の概算は実績と区別する。

まず答え

売上高が伸びても、新技術や海外工場の立ち上げで売上原価の比率が上がれば、利益率は下がる。それでも売上の伸びが十分大きければ、利益の金額は増える。TSMCの今回の決算は、この二つが同時に起きている例だ。

同社は顧客が設計した半導体を製造する受託製造企業である。最新の第3四半期では、前四半期より売上が増えた一方、売上総利益率は低下した。ただし、前年同期よりは利益率が高い。「利益率が下がった」という見出しだけでは、比較相手も、利益の増減も分からない。

今回の問いを選んだのは、10月15日に新しい決算と次四半期見通しが公表され、増収と利益率低下が実際に同時に示されたからである。以下では、需要の強さ、成長のための費用、投資回収を別々に確認する。株価が割安かどうかを判定する記事ではない。

数字を先にそろえる

指標2025年7〜9月実績2026年4〜6月実績2026年7〜9月実績
売上高989.921,270.381,494.24
売上総利益率59.5%67.7%66.4%
営業利益率50.6%60.3%58.7%
親会社株主帰属純利益452.30706.56763.06

売上高は前四半期比17.6%増、売上総利益率は1.3ポイント低下、営業利益率は1.6ポイント低下した。一方、前年同期比の売上高は50.9%増で、売上総利益率は6.9ポイント高い。成長の減速、採算の悪化、前年からの改善を一つの言葉にまとめないことが出発点になる。TSMC決算説明資料・スライド4

次の2026年10〜12月について、会社は米ドル売上高523億〜543億ドル、売上総利益率65〜67%、営業利益率56.5〜58.5%を見込む。為替前提は1米ドル=31.8台湾ドル。これは会社予想であり、実績でも市場予想でもない。売上総利益率の範囲には直近実績66.4%も含まれるため、「次の四半期も必ず低下する」という読み方も適切ではない。会社発表

利益率が低下しても、利益額は増え得る

売上総利益は、売上高に売上総利益率を掛けた金額である。公開された丸め済みの数字で概算すると、4〜6月の売上総利益は1,270.38×67.7%=約860.05、7〜9月は1,494.24×66.4%=約992.18となる。差は約132.13で、約15.4%増える。実際の財務諸表の精密な利益額を置き換える計算ではなく、「率」と「金額」を読み分けるための独自概算だ。

変化を二段階に分けると分かりやすい。まず前四半期の利益率を固定し、売上高の増加分223.86に67.7%を掛けると約151.55の増益効果となる。次に当四半期の売上高に利益率低下1.3ポイントを掛けると約19.43の減益効果。丸め前の数値で差し引くと132.12810となり、先ほどの増加分と一致する。各効果を小数第2位に丸めてから引くと132.12となるが、合計を最後に丸めた132.13との差0.01は丸め方による。分解の順序によって各効果の配分は変わるが、合計は同じである。

この分解は、数量増、値上げ、製品構成、為替を識別するものではない。売上高の変化にはそれらが混在する。利益率の低下を全部「設備投資のせい」としたり、売上高の伸びを全部「AI需要」としたりする根拠にはならない。

ここで確認できるのは、採算率の低下が売上増による利益額の拡大を打ち消すほどではなかった、という範囲だ。「利益率低下=減益」も「増益=採算に問題なし」も、どちらも飛躍になる。

何が利益率を押し下げたのか

会社は第3四半期の売上総利益率低下の主因を、2ナノメートル技術の初期立ち上げと説明している。次四半期についても、その立ち上げと海外工場の負担を挙げ、生産性やコスト改善が一部を相殺する見通しを示した。これは経営側の説明であり、個々の要因の金額を外部から独立検証できたという意味ではない。決算説明会記録・PDF3ページ

一般に半導体工場では、装置を設置しただけで直ちに最適な採算になるわけではない。良品率を上げ、稼働を安定させ、投入した設備や人員を十分な生産量に結び付ける過程がある。成長のために新しい工程を増やす局面では、成熟した工程だけを運営するときより費用の負担が先に出る場合がある。

ただし、今回の資料から工程別の良品率や製品別原価を逆算することはできない。「新技術だから一時的」という表現も、将来の改善が確認されるまでは仮説である。海外工場の高い費用が長期に残るなら、それは単なる期ずれではなく、供給網を広げるための構造的な負担になる。

反対に、利益率を守るため新技術への投資を遅らせれば、顧客の次世代製品に対応できず、将来の売上を失う可能性もある。目先の利益率を最大化する経営と、長期の企業価値を高める経営は常に一致しない。

設備投資額と費用、現金を混同しない

設備投資の支払いは現金を減らすが、その全額が同じ四半期の費用になるわけではない。稼働する設備は、通常、使用する期間に応じて減価償却費として配分される。設備投資が増えたというだけで、当期の利益率低下額を説明できないのはこのためだ。

会社の説明資料では、7〜9月の営業キャッシュフロー919.77から現金設備投資443.21を引いたフリーキャッシュフローは476.56。ここでのFCFは会社が示す「営業CF-設備投資」であり、企業買収などすべての投資支出を控除した残高ではない。決算説明資料・スライド8

この数値は、当四半期に営業活動から生まれた現金が、その四半期の設備投資を上回ったことを示す。しかし、新工場ごとの採算や投資回収年数を証明しない。既存の成熟工場が稼ぐ現金と、新工場への支出が合算されているからだ。顧客からの回収や支払い時期によっても四半期CFは変動する。

今回の決算だけから、工場別の投資回収期間や精密なROICを算定することは見送る。売上が将来いくら増えるか、設備をどのくらい使うか、追加投資や税負担がどうなるかという前提が足りない。仮定を並べれば数字は作れるが、作れることと信頼できることは異なる。

楽観・中立・警戒を分ける条件

強気に読めるのは、立ち上げが進むにつれて生産効率が上がり、売上増に現金回収が伴う場合だ。この場合、初期の利益率低下は将来の生産能力を確保する過程と考えやすくなる。ただし、改善する時期や幅を現時点で保証するものではない。

中立の読み方は、需要は伸びるが、海外生産の拡大などで高い費用も残るというもの。売上と利益額が増えても、過去の最高利益率に戻るとは限らない。投資家は以前の利益率を自動的に将来へ延長せず、増収がどの程度利益額と現金を増やしたかを見る必要がある。

警戒が必要なのは、売上が会社見通しに届かず、費用負担も改善せず、さらに回収が遅れるケースだ。工場を増やした後に需要が弱まると、固定費を少ない売上で負担するため、利益率への影響が大きくなり得る。これは条件付きの分析であり、今回その事態が発生したと述べているのではない。

三つの読み方に確率や目標株価は付けない。現時点で比較可能な根拠がないためだ。重要なのは、後からどのケースに近づいたかを判定できるようにしておくことである。

次の決算で確かめたいこと

最初に、会社が示した米ドル売上高と利益率の範囲に、実績がどう着地したかを確認する。為替前提が変わった場合は、その変化を事業の数量や価格の変化と切り分ける。

次に、新工程の立ち上げによる負担が、会社の説明どおりに変化したかを見る。単に「先端製品の比率が高まった」だけで良しとせず、全社の利益率、利益額、現金回収が同時に改善しているかを確かめる。

さらに、営業CFと設備投資を複数四半期で確認する。単一四半期の良いCFを、毎期同じ金額が残る証拠として使わない。運転資本、すなわち売上代金の回収前の残高や在庫、仕入代金の支払い前の残高も合わせて追う。

日本の装置・材料企業についても、TSMCの増収だけで個別企業の受注増を確定させることはできない。投資の工程、装置の種類、購入時期、各社の採用状況が必要になる。本稿では未確認の納入関係や受注額は掲げない。

結論は、利益率が下がった事実を軽視せず、利益額が増えた事実も落とさないこと。そのうえで、成長のための負担が将来の現金に変わるかを追う。TSMCの今回の決算は、増収・採算・投資回収という別々の問いを、一つの「好決算」という言葉で済ませないための材料になる。

出典と計算上の注意

利益額の分解は筆者による概算。市場コンセンサスとの比較、発表後の株価変動の原因特定、工場別投資回収年数、売買判断は対象外。原資料の確認と計算点検にAIを活用し、事実・会社の見通し・分析を区別して作成した。