情報基準日:2026年10月21日。RTXの2026年10月20日公表資料までを対象とする。
答え:本業の伸びは残る。ただし回収益を翌年へ延ばしてはいけない
過去に負担した費用の回収が利益を押し上げたとき、上方修正を全て持続的な成長とみなすのも、全て一時要因と切り捨てるのも適切ではない。回収分を分けた利益、事業別の需要、現金の動きを合わせて判断する必要がある。
航空機の装備品、エンジン、防衛機器を手掛けるRTXは、最新決算で通期見通しを引き上げた。一方、会社の調整後利益にもIEEPA(国際緊急経済権限法)に関する費用回収が含まれる。調整後という名前は、一時要因を全て取り除いたことを意味しない。
筆者の結論は「回収分を単純控除しても増益は残り、需要も伸びている。ただし同じ利益成長率が翌年も続く根拠にはならない」。関税関連の回収で決算が改善する企業を読む際の具体例として検討する。2026年7~9月決算発表、1~2頁
調整後EPSにも、回収の押し上げが残る
EPSは1株当たり利益。以下は連結、2026年7~9月と前年同期の比較である。
| 指標 | 前年同期 | 当年同期 |
|---|---|---|
| GAAP(米国会計基準)EPS | 1.41ドル | 1.89ドル |
| 会社の調整後EPS | 1.70ドル | 2.26ドル |
| 当年の調整後EPSに含まれるIEEPA回収 | 比較用控除なし | 0.25ドル |
会社の調整後EPSは前年から0.56ドル増えた。その約44.6%に相当する0.25ドルがIEEPA回収だ。当年だけこの回収分を引く筆者試算では2.01ドルとなり、前年の調整後1.70ドルに対して約18.2%増益が残る。
計算は「2.26−0.25=2.01」「2.01÷1.70−1」。これは会社が公表した別の利益指標でも、完全に平準化した利益でもない。その他の一時要因や税率、年金収益、株数変化は残る。前年の関税費用まで組み替えた同一条件の比較でもない。それでも、増益を回収だけで説明することはできないと分かる。決算発表、1~2頁
なお、当年のGAAP EPSと調整後EPSの差には、買収会計調整0.26ドルと、再編などの項目0.11ドルがある。会社が除外した費用と、除外せず残した回収を混同しないことが出発点になる。
需要と利益の広がりを、事業別に確かめる
以下の金額は百万ドル。会社の調整後セグメント営業利益をそろえた比較であり、連結純利益とは異なる。
| 事業 | 前年利益 | 当年利益 | 当年の個別押し上げ要因 | その要因だけを控除した当年利益 |
|---|---|---|---|---|
| Collins Aerospace | 1,194 | 1,788 | IEEPA回収 約250 | 約1,538 |
| Pratt & Whitney | 751 | 968 | IEEPA回収 約160 | 約808 |
| Raytheon | 859 | 1,134 | 国際契約変更・オフセット義務に関する有利な調整 約85 | 約1,049 |
単純控除後でも各事業の利益は前年を上回る。ただし回収額などは概数であり、これらを精密な「本業利益」とは呼ばない。Raytheonにも別の押し上げがあるため、IEEPAだけ除けば全て持続的だとする見方は弱い。Collins・Pratt、3頁/Raytheon、4頁
会社説明では、Collinsは航空機メーカー向けの新造機装備と、運航中の機材向け部品・整備がともに伸びた。Prattでは民間機向けの整備・部品需要が支えとなり、Raytheonでは防空などの需要が拡大した。つまり、需要の増加と費用回収が同時に起きている。
一方、PrattのGAAP営業利益は前年751百万ドルから当年608百万ドルへ減少した。顧客の破綻に伴う約363百万ドルの費用が計上され、会社の調整後利益では除外されている。調整後の増益だけを見ると、信用損失という現実のリスクを見落とす。契約や受注があっても、顧客の支払い能力と採算は別途確認しなければならない。決算発表、3頁
利益が増えても、四半期の現金は前年を下回った
フリーキャッシュフロー(FCF)は、営業キャッシュフローから設備への現金支出を差し引く。会計利益と異なり、代金回収や前受金、在庫積み増しの時期にも左右される。
| 期間・指標(百万ドル) | 2025年 | 2026年 |
|---|---|---|
| 7~9月 営業キャッシュフロー | 4,639 | 2,868 |
| 7~9月 設備への現金支出 | 614 | 749 |
| 7~9月 FCF | 4,025 | 2,119 |
| 1~9月 営業キャッシュフロー | 6,402 | 8,270 |
| 1~9月 設備への現金支出 | 1,657 | 1,964 |
| 1~9月 FCF(会社公表値を再計算) | 4,745 | 6,306 |
FCFは会社公表値を営業キャッシュフローと設備への現金支出から再計算した。
当四半期の営業キャッシュフローにはIEEPA回収約3億ドルが含まれる。それでも四半期FCFは前年を下回った。一方、累計FCFは増えている。「利益も現金も一様に強い」「現金創出が全面的に悪化した」のどちらも、この比較には合わない。
四半期の契約負債の増減は、前年の986百万ドルの資金増加に対し、当年は980百万ドルの資金減少だった。契約負債は、代金を受け取っても履行が済まず売上になっていない義務などを表す。これだけで全てを説明できないが、現金収支を前年と比べる際に無視できない差である。在庫や売掛金など、他の運転資本の動きも併せて見る必要がある。決算発表、2頁・11頁・16頁
通期上方修正を、そのまま来年の基準にしない
2026年会社予想は、調整後売上高が950~960億ドルから970~975億ドルへ、調整後EPSが7.10~7.25ドルから7.65~7.75ドルへ、FCFが85.0~87.5億ドルから90~92億ドルへ引き上げられた。決算発表、1頁
売上見通しも上がっている点は、回収益だけの説明とは合わない。ただし、利益予想の引き上げ幅から今回のEPS回収分を引くだけで、残り全額を将来へ反復可能と判断することもできない。他の四半期の回収、事業構成、税率などをそろえた完全な橋渡しではないためだ。
受注残も将来売上を支えるが、いつ納められるか、いくらの原価で履行できるかが重要になる。本稿では受注残をそのまま売上や現金として扱わず、翌年のEPSや適正株価も算出しない。
判断を変える三つの条件
強気側へ進む条件は、回収の押し上げが弱まった後も、各事業の納入・整備収入と利益が伸び、在庫や債権の増加を抑えながら現金化できること。基準となる見方は、本業の成長を認めつつ、今年の回収益の再現を見込まないことだ。
弱気側へ変わる条件は、調整後利益とGAAP利益の差が繰り返し拡大すること、供給制約や契約採算の悪化で売上増が利益につながらないこと、そして利益に対して現金回収が遅れ続けること。今回の顧客破綻費用は、その最後の点を抽象的な注意では済ませられない理由になる。
これらは筆者の条件付きシナリオであり、会社予想ではない。次の決算では「回収益を除いた比較」「GAAPとの差の理由」「累計FCFと運転資本」をセットで確かめたい。調整後利益の見栄えより、売ったものが利益と現金の両方になる仕組みが続くかが重要だ。