先に答え
電力システムに役立つ設備が増えても、その設備を保有する側の単位収益が増えるとは限らない。 蓄電池は、安い時間に充電し、高い時間に放電することで価値を生む。その普及が高い時間の電力不足を和らげれば、自らが稼ぐ価格差を縮めることもある。
ただし、価格差による収入は事業全体の一部だ。容量を提供する契約、設備取得費、劣化対策、資金調達によって最終的な採算は変わる。「市場収入が低下したので、蓄電池投資は失敗」と結論を急ぐのも間違いである。
10月28日公表のCAISOの2025年蓄電池報告は、普及と単位収入の逆方向の動きを示す。さらに10月1日公表のCPUC容量評価を組み合わせ、投資家の問いを「設備が増えるか」から「増えた設備の誰が、何の契約で回収するか」へ進める。
設備群の収入は増えたが、1kW当たりは減った
CAISOはカリフォルニアの主要な送電網・電力市場を運営する機関。その市場監視部門によると、CAISO域内で通年稼働した電池の容量加重平均の市場純収入は、2024年の約53ドル/kW・年から、2025年は約45ドル/kW・年へ減った。丸められた公表値で計算すると約15.1%の低下になる。一方、電池群全体の市場純収入は約2%増えた。CAISO、2025年蓄電池報告、29〜30頁
設備が増えれば、全体の収入増と単位収入減は両立する。ただし、通年稼働の集計でも各年の設備構成は同一とは限らない。同じ電池がすべて15.1%減収したという追跡調査ではない。
「純収入」も、会計上の純利益ではない。ここでは充放電などに関する市場決済の収支を指し、建設費や金利などをすべて引いた投資利益ではない。同じ報告は、電力供給能力を確保する容量契約からの支払いを別に説明している。同報告29頁脚注20、34頁
なぜ、社会的な改善が保有者の逆風になり得るか
本稿の因果仮説は次の順序だ。
- 太陽光などで安い時間帯の電力が増え、蓄電池がそれを吸収する。
- 夕方などの需要に対して、蓄電池や他の電源からの供給が増える。
- 高価格の時間帯の価格が下がり、充放電の価格差が縮む。
- 放電量が増えても、1単位の設備に残る収入は減ることがある。
CAISO報告も、低いピーク価格を単位収入低下の主因として説明している。ただし、電池だけの効果を切り出した因果推定ではない。天候、需要、再生可能エネルギー、他の発電設備、燃料価格や輸入も変わる。同報告29頁
大事なのは「普及すれば儲からなくなる」と決めつけることではない。市場に不足していた機能を補うほど、その不足に由来する価格は弱くなり得る、という構造である。需要の増加や送電制約が供給増を上回れば、価格差は再び広がり得る。
容量契約が補う、という反論はどこまで言えるか
容量契約は、必要な時に供給できる能力を確保する対価だ。カリフォルニアではResource Adequacy(RA、供給力確保)の制度がある。実際の市場売買とは異なる収入源なので、価格差収入だけで電池の投資採算は決まらない。
しかし、「容量の価値が上がるから必ず相殺される」とも言い切れない。CPUCが公表した市場価格ベンチマークでは、次の低下が確認できる。
| RA評価、ドル/kW・月 | 前の対象年 | 次の対象年 | 本稿計算 |
|---|---|---|---|
| Final同士:2025年→2026年 | 11.21 | 10.11 | −9.8% |
| Forecast同士:2026年→2027年 | 11.53 | 10.02 | −13.1% |
CPUC、Market Price Benchmark Calculations 2026、10月1日公表、1〜3頁。率は「次の年÷前の年−1」。FinalとForecastを混ぜて一本の時系列にはしていない。
これは電力ポートフォリオの市場価値を計算する制度上の評価値であり、電池だけの実現収入ではない。2026年Finalは、2022年12月〜2026年8月に成立した2026年受渡しのRA取引の数量加重平均。2027年Forecastも、すでに成立した対象取引を用いる。Finalという名称も、2026年のすべての現金入金が完了したことを意味しない。
両比較は統一されたRA方式だが、取引構成や集計窓は動く。示せるのは「広い容量価値が一方向に上がっているわけではない」という反証までである。固定価格の既存契約がある電池の今期収入が、同じ率で減るとは言えない。
また、この月額評価を12倍し、CAISOの45ドル/kW・年に足して「電池の年間収入」を作ることもできない。対象設備、契約する容量、期間、市場収入を受け取る権利が一致していないためだ。
保有者を三つに分けると見え方が変わる
以下は契約構造に基づく分析であり、特定企業の実績や将来利益の予測ではない。
| 立場 | 注目する条件 | 単位市場収入が下がったとき |
|---|---|---|
| 市場収入を主に得る既存設備 | 価格差、稼働、劣化、既存借入 | 収入低下を受けやすい。過去の建設費は下がらない |
| 固定対価の長期契約がある設備 | 契約期限、性能義務、再契約条件 | 当面の対価は守られ得るが、更新時の条件が重要 |
| これから投資する新設備 | 総建設費、資金コスト、将来契約 | 収入低下と建設費低下のどちらが大きいかで判断が変わる |
同じ「蓄電池関連」でも、設備を販売する企業、設置工事をする企業、資産を持ち続ける企業では、売上が生まれる段階も負うリスクも異なる。市場規模の拡大率だけでは、その企業に利益が残る割合を説明できない。ここから個別銘柄へ進むには、事業の位置と契約を確認する必要がある。
安い電池は、収入減を埋められるか
新しい設備を安く導入できれば、必要な年間回収額は下げられる。しかし、機器の価格と発電所全体の取得費は同じではない。設置工事、系統接続、利用可能な蓄電時間、交換費用、金利まで含めて比較する必要がある。
公的なATBの蓄電池コスト評価も、特定の出力・蓄電時間を置いたモデルであり、CAISOの既存電池群の請求書ではない。将来費用のシナリオを、過去の実績コストとして収入に対応させることはできない。NLR、2025 ATB・Utility-Scale Battery Storage、Methodology
本稿では、2024年と2025年のCAISOの同じ設備について、容量契約の実収入、建設費、維持費をそろえた採算計算はできていない。この不足は結論に直結するため、「総利益も15.1%減った」とは書けない。
結論を変える三つの条件
改善するケースは、需要や価格変動が増え、設備費・資金コストが抑えられ、固定契約が十分な回収を支える場合。中間ケースは、市場収入が下がっても既存の契約で当面吸収でき、再契約時に徐々に影響が出る場合。悪化するケースは、市場への依存が大きく、再契約の単価や契約容量も下がり、借入返済・交換費用が重い場合だ。どれも条件付きで、確率や精密な発生年は置かない。
次に必要なのは、個別設備についての市場決済、容量契約の単価・認定容量・満了日、収入の帰属、維持更新費、借入返済の資料である。同じ設備の実収入が維持されていれば単純な悪化説は弱まる。逆に、契約更新後の収入まで減れば、市場指標の低下が企業利益へ及ぶ具体的な経路になる。
供給の改善と、供給者の投資採算は別の問いだ。 今回は前者と単位市場収入の弱さが同時に確認できたが、個別電池の総利益や現在の株価が割高・割安かは未確定である。
情報基準日:2026年10月31日。CAISOの対象は暦年2025年、CPUCは各表の受渡し年。公表日と対象年を区別し、異なる設備群や評価制度を合算していない。