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MARKET NOTE RESEARCH

テルモ(4543)企業分析:医療現場の反復需要を、投資回収につなげられるか

医療現場の反復需要と精密加工・量産品質を強みに成長するテルモ。9年の財務、事業別利益、キャッシュフロー、ROICを検証し、CSL契約終了と新規投資の回収条件を整理する。

公開日時:

情報基準日:2026-10-19(公開日とは異なります)

テルモは、血管の中を通るカテーテル、採血に使う装置とバッグ、薬を届ける注射器などをつくる会社だ。医療現場で治療や採血が行われるたびに、製品の出番が生まれる。製薬会社向けには、薬に合う注射器の開発から製造までを手がける。会社を理解する出発点は、この繰り返される需要と、安心して使い続けてもらうための技術・品質にある。事業紹介:血管内治療、血液・細胞、製薬企業向け

ただし、製品が必要とされることと、そこに投じた資金を十分に回収できることは別の問いになる。テルモでは、既存事業の成長、新工場や買収への投資、血漿採取事業の契約終了が同時に進んでいる。本稿の結論は、医療現場に根付く事業基盤は評価できる一方、次の確認点は売上規模よりも、投資後に残る現金と資本利益率である、というものだ。

以下では、まず事業の稼ぎ方を整理し、長期財務、最新決算、資本配分の順に検証する。最新四半期の好業績だけで判断しないため、10月8日の業績予想修正も反映した。

情報基準:2026年10月19日19時42分(日本時間)。年度は混乱を避けるため原則として「○年3月期」で表記する。会社資料のFY26は2027年3月期に相当する。金額は表ごとに単位を示し、純利益は親会社の所有者に帰属する当期利益を指す。

1.何を売り、どこから利益が生まれるのか

心臓血管:治療に使う製品群が利益の中心

心臓血管カンパニー(C&V)は、カテーテルやガイドワイヤー、血管内画像診断、脳血管治療、人工心肺、人工血管などを扱う。細い血管内で操作する製品では、寸法だけでなく曲がり方、滑りやすさ、力の伝わり方、品質の再現性が重要になる。医師が使い慣れた製品を継続使用する理由をつくりやすい領域と考えられる。ただし、これは価格改定や新製品への切り替えが不要になるという意味ではない。2026年3月期有価証券報告書、PDF140頁「主要製品」

メディカルケア:病院用品と製薬会社向け事業を分けて見る

メディカルケアソリューションズ(TMCS)には、輸液・注射関連、糖尿病関連などに加え、製薬会社向けの薬剤充填用注射器や製造受託が入る。同じセグメントでも、病院への製品販売と、医薬品開発に合わせた設計・評価・製造では成長速度も投資回収期間も異なる。製薬会社向けでは、採用後の継続需要が期待できる反面、商用生産までの準備と顧客製品の成功に左右される。ファーマシューティカルソリューション事業

血液・細胞:装置と消耗品、現場の運用を組み合わせる

血液・細胞テクノロジー(TBCT)は、血液バッグ、成分採血、血液自動製剤、治療アフェレーシス、細胞関連システムなどを展開する。装置の導入が継続的な消耗品需要につながる構造が重要だ。一方、装置が動くだけでは十分ではなく、採取施設の人員配置、データ連携、保守や運用支援にも適合する必要がある。後述のCSL Plasmaとの契約終了は、その難しさを示した。血液・細胞事業紹介、契約終了説明会、PDF3・5頁

オーガン:臓器移植という新しい投資先

オーガンテクノロジーズ(OT)は、OrganOxの買収により加わった臓器保存デバイスの事業だ。2025年10月29日以降の業績を連結しているため、2026年3月期の数値は通年ではない。買収先の通年売上とテルモ連結への計上額を混ぜると、成長率を読み違える。有価証券報告書、PDF8・138頁

2026年3月期の利益構成

単位:百万円。利益率は各セグメントの調整後営業利益÷売上収益で本稿計算。

セグメント売上収益調整後営業利益同利益率
心臓血管(C&V)676,421163,99424.2%
メディカルケア(TMCS)216,13821,56810.0%
血液・細胞(TBCT)231,03733,63514.6%
オーガン(OT、買収後のみ)7,9851,66520.9%
連結1,131,877219,36919.4%

連結の売上・利益には、各セグメントに帰属しない収入や本社費用等の調整が含まれるため、上記4事業の単純合計とは一致しない。各欄には百万円未満切り捨てによる端数差もある。2026年3月期決算短信、PDF17頁

C&Vは連結売上の59.8%、連結調整後営業利益の74.8%に相当する。製品分野は幅広いが、利益の重心は心臓血管にある。TMCSの製薬関連やOTが伸びることは分散に役立つものの、当面の全社収益を判断する際には、C&Vの販売数量、価格、競争状況が欠かせない。上記の利益構成比は本社調整後の連結利益を分母とした本稿計算であり、各事業の構成比を足して100%にする指標ではない。

2.強みは「精密につくる」ことを現場の継続利用へ結び付ける力

10月19日の技術説明会では、金属加工、プラスチック成形、コーティングに加え、狙った性能を大量生産でもそろえる技術が説明された。投資家にとって重要なのは、優れた試作品の有無より、医療現場に同じ使い勝手の製品を供給し続けられるかという点だ。技術説明会2026、PDF6–7・17頁

薬剤充填用注射器PLAJEXでは、薬剤との相性、製造条件、規制対応を組み合わせる。会社は承認後の切り替えの難しさが顧客との長期関係につながると説明する。ただし、これは会社が示す競争優位の説明であり、将来の受注や利益を保証するものではない。同説明会、PDF10頁

ここから本稿が読み取る収益構造は、次の順序になる。

  1. 技術・臨床評価・品質対応に先行費用をかけ、医療機関や製薬会社に採用してもらう。
  2. 治療や生産が続く間、製品・消耗品を安定供給する。
  3. 製品の改良、製造歩留まり、販売価格、販売構成を通じて利益を積み上げる。
  4. 在庫、設備、開発費を賄った後にも現金が残れば、次の投資や株主還元に回せる。

反復需要は魅力だが、設備と在庫を先に抱え過ぎたり、顧客の運用に合わなかったりすれば、最後の段階まで届かない。継続売上があることだけで「資本をあまり使わない事業」と評価するのは早い。

3.競合は製品ごとに異なる

テルモを他社と比較するときは、医療機器メーカー全体の利益率を並べるより、用途と顧客の選択肢をそろえた方が有益だ。以下は競争領域の整理であり、市場シェア順位や製品の臨床的優劣を示すものではない。

領域比較すべき相手・製品投資家が確認したい点
血管内画像診断AbbottのOCT・Ultreon画像の機能だけでなく、診療手順、ソフトウェア、導入施設での継続利用
脳血管治療Medtronicの脳梗塞・脳動脈瘤治療製品群個別製品の使いやすさ、臨床データ、医師への支援、製品構成
薬剤充填用注射器BDのガラス・ポリマー製プレフィラブルシリンジ薬剤との適合、製薬会社の開発工程への参画、品質と供給能力
原料血漿採取HaemoneticsのNexSys PCSと関連ソフトウェア採取機器に加え、データ連携、施設運営、サービスの総合価値
臓器保存・移植支援TransMedicsのOCS保存デバイスに加え、輸送・モニタリングを含む提供体制

競合の一次情報:Abbott、2026年4月28日発表、Medtronic製品群、BD製品概要、Haemonetics機器・ソフトウェア、TransMedics OCS。

テルモが血管内画像診断システムDSS(Dual Sensor System)で異なる画像の機能を組み合わせ、製薬向けで設計から製造までを広げる方向は、こうした競争に対応するものと読める。ただし、提供範囲が広がれば、開発、品質管理、運用支援への責任も広がる。売上機会の拡大と必要資本の増加を同時に見る必要がある。技術説明会、PDF8・10頁

4.9年の財務:事業は拡大したが、資本効率は別の軌道を描く

単位:百万円、ROEのみ%。すべて連結実績。営業利益はIFRSの営業利益であり、調整後営業利益とは異なる。

3月期売上収益営業利益純利益営業CFROE
2018587,775108,55291,295114,56217.5
2019599,481106,63779,47093,57112.7
2020628,897110,61185,211117,47911.7
2021613,84298,38677,268121,4859.6
2022703,303115,96088,813141,4679.5
2023820,209117,33289,325117,5368.4
2024921,863140,096106,374146,3308.7
20251,036,171157,668116,978210,8028.7
20261,131,877176,320135,914230,8529.2

出所:各決算短信のPDF1頁。2019年3月期(2018年比較値を含む)、2020年3月期、2022年3月期(2021年比較値を含む)、2024年3月期(2023年比較値を含む)、2026年3月期(2025年比較値を含む)。

2018年3月期は、企業結合の暫定会計処理を確定した後の比較値を採用した。また同年度の純利益には米国税制改革に伴う税負担減少があるため、その年の高いROEを通常の収益力の基準に置くのは適切でない。2019年3月期決算短信、PDF2・5頁

2020年3月期からはIFRS16のリース会計も適用されている。比較情報は遡及修正されていないため、長期の営業CFを完全に同じ会計条件の数列として扱わない。2020年3月期決算短信、PDF15–16頁

表から確認できるのは、売上・営業利益・営業CFが長期で拡大してきたことと、その間も利益が毎年増えたわけではないことだ。2021年3月期には売上と営業利益が減少し、2023年3月期は増収でも営業CFが減った。医療需要の継続性が、そのまま毎年の利益・現金増加を約束するわけではない。

もう一つ重要なのは、売上規模の拡大とROEの動きが一致していないことだ。買収、設備、運転資金などに資本を積み増す企業では、利益が増えても資本利益率が同じように上がるとは限らない。次のCFとROICを合わせて読む必要がある。

5.現金の稼ぎ方:マイナスのFCFを分解する

「フリーキャッシュフロー」という名称だけでは、企業買収まで含むのか、設備投資だけを差し引くのかが分からない。ここでは現金収支の意味を明示して比較する。

単位:百万円。支出はマイナス。下段2行は開示された表示値による本稿計算。

項目2025年3月期2026年3月期
営業CF210,802230,852
投資CF-82,481-344,102
有形固定資産取得の現金支出-68,617-85,213
無形資産取得の現金支出-13,748-16,750
関係会社・事業取得の現金支出-479-248,275
営業CF+投資CF128,321-113,250
営業CF-有形・無形資産の取得支出額128,437128,889

出所:2026年3月期決算短信、PDF14頁「連結キャッシュ・フロー計算書」。最下段は事業取得、金融資産の売買等を含めず、財務CFに分類されるリース負債返済も控除しない補助指標であり、株主にそのまま分配できる現金ではない。

この分解からは、営業CFが増える一方で設備・無形資産取得支出も増え、その後に残る金額はおおむね横ばいだったことが分かる。営業CFと投資CFの合計がマイナスになった大きな要因は事業取得だ。日常の事業が現金を生まなくなった、と読むのは誤りだが、買収資金を「本業と無関係」として無視するのも誤りになる。将来の利益を得るために実際に支払った資金だからだ。

なお、百万円未満の切り捨て前の金額で計算された会社資料のFCFと、本稿の表示値の単純合計には端数差が生じ得る。設備投資の計上額と実際の現金支出も同じではないため、ここではCF計算書の取得支出を使った。

6.資産と負債:新しい成長源を買うと、回収すべき資金も増える

単位:百万円、各期末残高。

項目2025年3月末2026年3月末
現金及び現金同等物221,872280,494
棚卸資産294,385335,634
のれん及び無形資産545,243803,410
社債及び借入金(流動・非流動の合計)174,838379,796

社債及び借入金は本稿集計であり、別科目のリース負債を含む総有利子負債ではない。2026年3月期決算短信、PDF9–10頁

現金残高だけを見ると余力が増したように見えるが、借入金なども増えている。さらに、のれん・無形資産の増加は、買収時点で見込んだ将来収益を実現していく責任が大きくなったことを意味する。

OrganOxの取得対価は230,632百万円、取得時に認識したのれんは138,230百万円だった。取得対価には未払金や取得前保有持分の公正価値も含まれ、連結CF計算書の事業取得支出と同じ概念ではない。有価証券報告書、PDF138–139頁

本稿の見方では、評価すべきは買収先の売上成長だけではない。追加の開発・生産投資、取得に伴う無形資産償却、運転資金を含めて、投資額に見合う現金が蓄積するかが重要になる。買収後の短期間のセグメント利益率だけで、買収価格の妥当性を判断することはできない。

7.最新四半期:増益は事実だが、そのまま年換算できない

2027年3月期第1四半期は2026年4–6月。単位:百万円。増減率は表示値からの本稿計算。

項目前年同期当期増減率
売上収益259,965311,810+19.9%
調整後営業利益59,10379,607+34.7%
IFRS営業利益55,88589,480+60.1%
純利益41,84370,426+68.3%

出所:2027年3月期第1四半期決算短信、PDF1頁。会社開示の為替影響を除く増収率は9.4%であり、円換算の19.9%すべてを販売数量の増加とみなすことはできない。為替影響除外も、価格や買収の影響まで取り除いた数量成長率ではない。同PDF4頁

「調整後」でも一時的な利益は残る

テルモの調整後営業利益は、IFRS営業利益から買収に伴う無形資産償却や会社が定める特定の一時損益を調整した非IFRS指標で、セグメント利益にも使われる。当四半期は次の関係になっている。

調整後営業利益79,607 − 買収関連無形資産償却7,211 + 一時損益の純益17,084 = IFRS営業利益89,480(百万円)。

一時損益には訴訟和解金20,110百万円などが含まれる。利益を調整する際に一時利益を除くため、今回はIFRS営業利益の方が調整後営業利益より大きい。同決算短信、PDF15頁

さらに、米国関税の還付130億円は調整後営業利益にも含まれている。「調整後」と書かれていても、毎年繰り返す利益だけに純化された数値ではない。還付を含む四半期の利益率を通年や翌期へそのまま延ばすべきではない。第1四半期決算説明会、PDF4–5頁

事業面では、C&Vのカテーテル関連や脳動脈瘤治療、TMCSの既存製造受託・PLAJEX、TBCTの採血関連製品が寄与した。一方、会社は脳梗塞領域の競争激化や、一部のRelayPro製品の自主回収による影響も説明している。好調な全社数値の中にも、製品別の強弱はある。同説明会、PDF6–8頁

8.CSL契約終了:損失額だけでなく、成長投資の前提を点検する

10月8日、テルモはCSL Plasmaとの原料血漿採取システムの供給契約を、合意した移行期間を経て終了すると発表した。即日ですべての供給を止めるという発表ではなく、血液・細胞事業全体からの撤退でもない。適時開示、PDF1頁、10月9日のTerumo BCTステートメント

会社は、顧客が一部施設で競合プラットフォームへの移行を決めたことや、想定以上の投資・時間を要したことを説明している。CSLはPI(Plasma Innovations)事業の売上の大部分を占める主要顧客であり、これをTBCT全体の顧客集中度と混同してはいけない。契約終了説明会、PDF3・5頁

2027年3月期の最新会社予想

単位:百万円、EPSのみ円。8月予想は旧予想、10月8日予想が本稿基準時点の最新予想。

項目2026年3月期実績2027年3月期・8月7日予想同・10月8日予想
売上収益1,131,8771,239,0001,229,500
調整後営業利益219,369274,500274,500
IFRS営業利益176,320257,500160,000
純利益135,914193,100120,000
基本的EPS92.14130.9181.35

最新予想の前期比は、売上収益+8.6%、調整後営業利益+25.1%、IFRS営業利益-9.3%、純利益-11.7%となる。8月予想からはIFRS営業利益を97,500百万円、純利益を73,100百万円引き下げた。率と差額は表示値から本稿計算。10月8日適時開示、PDF2頁

損失等の概算975億円のうち、720億円は現金支出を伴わない減損、255億円は移行期間中の事業損失、契約終了・再編等の関連費用とされる。255億円を公表日に全額支払うという意味ではない。契約交渉、移行条件、資産評価によって金額が変わり得る点も残る。同開示、PDF1頁

非現金の減損は、その期の現金流出とは異なる。しかし、過去に投じた資金に見合う利益を回収できないという評価を反映する。会計上の一時損失として日々の事業利益から分けることには意味があるが、資本配分の成績から消してよいわけではない。

また、調整後営業利益の据え置きには、減損後の償却負担軽減等による約20億円の押し上げと、Arsenal Medical買収に伴う研究開発費等約20億円の負担が織り込まれている。したがって、据え置きだけを根拠に「経済的な稼ぐ力への影響はない」とは判断できない。同開示、PDF2頁脚注

前向きに評価する条件は、追加投資や損失を抑え、血液自動製剤や治療アフェレーシスへの再配分が実際の現金収支改善につながることだ。会社もこれらへの集中を掲げる。ただし、改善幅の見通しと、移行完了後に確認できる実績は区別しておきたい。契約終了説明会、PDF6–7頁

9.ROICと株主還元:利益を増やすだけでは足りない

会社開示のROICは、2025年3月期、2026年3月期ともに7.5%だった。本稿では会社公表値を引用しており、適用税率や有利子負債の内訳までそろえた独自の再計算値ではない。定義は、税引後営業利益÷「有利子負債+資本合計」の期首・期末平均である。現金を差し引いた投下資本を分母にする他社指標や、調整後営業利益をそのまま使った独自計算とは比較できない。ROEは、純利益÷親会社所有者帰属持分の期首・期末平均で、8.7%から9.2%へ上昇した。有価証券報告書、PDF176頁「資本管理」

今後はROICの改善そのものに加え、その理由を確認したい。利益と現金収入の増加による改善なのか、減損で資産や資本の帳簿額が小さくなった影響なのかで意味が違う。償却費の減少も将来の会計利益を押し上げるが、それ自体が過去の投資資金の回収を増やすわけではない。

株主還元は安定的な増配を基本とし、成長投資や財務健全性を考慮しながら、総還元性向50%程度を目安に自己株式取得も検討する方針だ。毎年一定額の買い戻しを約束したものとは読まない。2026年3月期決算短信、PDF7頁

年間配当は2025年3月期26円、2026年3月期30円。2027年3月期の会社予想36円は、10月8日の業績修正でも維持された。ただし、配当維持だけで投資余力を判断せず、買収・設備支出、負債の返済、移行費用と合わせて確認する必要がある。決算短信、PDF1–2頁、10月8日説明会、PDF4頁

10.成長機会は、売上になるまでの条件と一緒に見る

血管内画像診断と脳血管治療。 DSSは血管内超音波と光を用いた画像診断の知見を組み合わせる。脳動脈瘤治療のWEBも、既存の臨床経験と販売基盤を生かす製品だ。確認点は発売や機能追加だけではなく、採用施設での継続利用、競合に対する選択理由、販売数量と製品構成である。技術説明会、PDF8–9頁

製薬会社向けの開発・製造受託。 ドイツ・レバークーゼン工場は、2027年の稼働開始に向けて準備中と会社は説明している。引き合いがあることと、契約・承認・商用生産・安定稼働がそろうことは別だ。売上の立ち上がりより先に費用が発生する局面では、受注の具体化、稼働率、品質対応、追加投資の管理を見たい。第1四半期説明会、PDF7頁

臓器保存。 OrganOxの成長は新たな収益源になり得るが、保存装置の需要拡大だけで投資回収が決まるわけではない。医療機関の導入体制、生産供給、利用に伴うサービス、競合の輸送・支援体制までが検証対象になる。Terumo IR Day 2026、PDF46頁、TransMedicsの提供内容

開発段階の技術獲得。 9月30日に公表したArsenal Medicalの買収契約は、液体塞栓材料などの開発基盤を取り込むものだ。NeoCastの臨床試験に関するIDE承認は、販売承認と同じではない。開発の成功、規制承認、上市時期を確定した売上として扱わない。取得価格は開示されておらず、本稿では買収利回りを算定しない。Arsenal Medical買収説明会、PDF3–5頁

11.見落としたくないリスク

医療需要が続いても、販売価格は医療保障制度や入札で変わり得る。品質問題が起きれば、売上だけでなく供給の継続性や顧客の信頼に影響する。新しい臨床データによって製品の競争力が変わることもある。会社はこれらに加え、買収、減損、供給網、為替、情報セキュリティを主要リスクとして挙げている。会社開示「事業等のリスク」

本稿では、特に次の組み合わせを重く見る。

  • 高い固定費と導入の遅れ。 工場や人員を先に用意すると、販売が想定に届かない間の負担が長引く。CSL案件は、その回収条件を点検する具体例になる。
  • 買収と既存事業の同時進行。 新領域への投資が重なるほど、開発・品質・生産・顧客支援を統合する経営能力が問われる。売上の連結効果と買収後の価値創造を分ける。
  • 為替・関税と実力成長の混同。 円換算売上や還付益だけが改善した場合、次の期間に同じ伸びを期待する根拠にはならない。
  • 価格決定力の過大評価。 医療現場で重要な製品でも、競合、顧客の運用、予算制約との比較から逃れられるわけではない。

これらは上記資料を踏まえた分析上の着眼点であり、未公表の問題が発生していると断定するものではない。

12.次の決算で何を確かめるか

評価を上げる条件は、C&Vの反復需要が価格・数量の両面で維持され、新規投資が現金創出に結び付き、CSL契約の移行負担が管理されることだ。逆に、調整後利益だけが強く見える一方、追加投資や移行費用が増え、回収の説明が後ろへずれるなら慎重さが必要になる。

確認項目改善を評価できる状態警戒したい状態
既存製品の成長為替効果と分けても需要・価格・販売構成が改善円換算や一時利益への依存が強まる
CSL契約の移行損失、支払時期、残る設備・人員の扱いが具体化費用の拡大、移行長期化、追加資金負担
新工場・製薬向け引き合いが商用生産と現金収入へ進む稼働の遅延や投資追加が先行する
OrganOx等の投資回収成長とともに追加投資後の現金が増える売上は増えても資本負担が膨らむ
資本効率利益・現金の改善を伴ってROICが上向く減損後の帳簿額縮小だけで改善して見える

テルモの魅力は、使うたびに必要になる製品と、それを医療現場で選び続けてもらう技術・供給基盤にある。その魅力を株主価値へつなげるには、成長に必要な資金を回収する力が欠かせない。今は、好調な四半期利益と大型減損のどちらか一つで会社を説明するより、既存事業の現金創出、新規投資の回収、撤退・縮小の規律を一緒に追う局面と考える。

本稿は事業と財務の分析であり、売買推奨や目標株価の提示ではない。基準時点の株価・市場予想をそろえた評価は行っていないため、企業としての強さから株価の割安・割高を結論づけない。