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Costco:会費だけでは説明できない、薄利と現金創出の強さ

低価格、会員継続、在庫回転が支え合う小売モデルを、10年の財務と最新開示から検証する。成長の持続性は高く評価できる一方、会費の増加、ガソリン価格、仕入先条件による押上げを分けて読む必要がある。

公開日時:

情報基準日:2026-10-17T20:00:00+09:00(公開日とは異なります)

概要:低価格、会員継続、在庫回転が支え合う小売モデルを、10年の財務と最新開示から検証する。成長の持続性は高く評価できる一方、会費の増加、ガソリン価格、仕入先条件による押上げを分けて読む必要がある。

情報基準日:2026年10月17日11:00 UTC。年次財務は2026年8月30日終了年度の監査済み10-K(SEC提出日2026年10月7日)。その後の情報は10月7日公表の9月売上、10月14日公表の配当まで確認した。以下の「FY」はCostcoの会計年度であり、暦年ではない。米ドル表示、連結ベース。

最初に押さえたいこと

Costcoを「商品を原価で売り、会費だけで儲ける会社」と理解すると、強みも弱点も見落とす。

本質は、安く売っても成り立つ売上密度と在庫回転をつくり、その価値を感じた会員が翌年も戻る仕組みにある。会費は重要な収入源だが、店舗、物流、人材、商品への信頼を維持する費用と切り離せない。

FY2026は商品売上高が前年比10.1%増、営業利益が12.5%増。長期の拡大は確かな一方、直近の売上にはガソリン高と為替の追い風があり、営業キャッシュフローには仕入先条件の改善も効いている。「優れた事業」と「今の価格で魅力的な株式」は、別々に判断したい。FY2026決算発表、FY2026 10-K:pp.26–29、37、41

1. 10年で拡大したのは、売上だけではない

下表の「商品売上高」は会社のNet sales。ガソリンや関連サービスも含むが、会費は含まない。「総収入」は会費を加えたTotal revenueである。営業利益率の分母は総収入に統一した。

単位:百万米ドル。設備投資はキャッシュフロー計算書のAdditions to property and equipmentを正数で表示。単純FCFは営業CFからこの現金設備投資を引いた独自計算。

FY商品売上高総収入営業利益営業利益率営業CF現金設備投資単純FCF
2017*126,172129,0254,1113.19%6,7262,5024,224
2018138,434141,5764,4803.16%5,7742,9692,805
2019149,351152,7034,7373.10%6,3562,9983,358
2020163,220166,7615,4353.26%8,8612,8106,051
2021192,052195,9296,7083.42%8,9583,5885,370
2022222,730226,9547,7933.43%7,3923,8913,501
2023*237,710242,2908,1143.35%11,0684,3236,745
2024249,625254,4539,2853.65%11,3394,7106,629
2025269,912275,23510,3833.77%13,3355,4987,837
2026297,247303,15411,6853.85%15,8176,4359,382

*FY2017とFY2023は53週、その他は52週。表は公表実績をそのまま表示。出典:FY2018 10-K:損益計算書・CF計算書、FY2020 10-K:pp.35、39、FY2023 10-K:pp.34、38、FY2026 10-K:pp.37、41。PDFの対応ページは末尾資料一覧に記載。

FY2017からFY2026までの9年間で、商品売上高の年平均成長率は約10.0%、営業利益は約12.3%。FY2017を機械的に52週換算すると、それぞれ約10.2%、約12.5%になる。利益が売上を上回って増えたことは、会費に加えて店舗・物流・本部の費用を大きな販売量に分散できた可能性を示す。ただし、この成長率だけで将来の同率成長を正当化することはできない。

期間差の影響は、単年度ではもっと目立つ。FY2024の商品売上高は公表実績同士では約5.0%増だが、53週だったFY2023を52/53倍した比較では約7.0%増になる。後者は季節性を無視した参考計算であり、会社の比較可能週による既存店売上成長率とは別物だ。

また、利益が増えていても現金は毎年同じようには増えない。FY2022の営業CFはFY2021を下回り、FY2023に回復した。CF計算書ではFY2022の在庫増加が4,003百万ドルの資金使用、FY2023の在庫減少が1,228百万ドルの資金流入となっている。小売の成長評価には、損益と在庫の両方が必要である。FY2023 10-K:p.38

なお、過去の数値は後年開示の比較列を優先した。会計基準の変更まで完全に組み替えた「同一経済条件の10年」ではない。とくに株式報酬に伴う税効果のCF表示、収益認識、リース会計の変更があり、細かな年度間差はその影響も受ける。長期の規模拡大を見る表と、直近の構造変化を検証する表を混同しない。

2. 低い粗利率を強みに変える条件

会社は、倉庫店の商品数を原則4,000SKU(商品を管理する単位)未満に絞る。少数の商品に発注を集中し、直接仕入れ、配送拠点での積み替え、パレット陳列などで商品に触れる回数を減らす。品揃えの幅や小分けの利便性を一部手放すことで、購入量と作業効率を取りにいく設計だ。FY2026 10-K:pp.3–4

ここから先は本稿の解釈である。会員が価値を感じるほど購買が集まり、調達と運営が効率化し、その余力を価格に戻すことができる。重要なのは、粗利率を上げられることだけではなく、価格を抑えたまま一店、一人、一単位の設備が生む販売量を増やせることだ。

ただし、「低価格だから必ず勝つ」わけではない。大型包装には保管場所と一度に支払う資金が必要で、来店にも時間がかかる。競争相手はSam’s ClubやBJ’sだけでなく、Walmart、Amazon、食品スーパー、ディスカウント店にも広がる。会員は商品一つの単価に加え、移動、配送、品揃え、手間を含めて選ぶ。Costcoがすべての買物で最安・最便利だと立証する価格調査は、本稿では行っていない。会社が挙げる競合と競争要因:FY2026 10-K、p.7、pp.13–14

Kirkland Signatureについて、会社は一般的な全国ブランドより低価格で、差別化に役立ち、通常はより高い利益率を得られると説明している。これは会社の説明であり、ブランド別の売上、営業利益、投下資本は開示されていない。「PB比率が上がれば必ず全社利益率が上がる」とは置けない。価格にどれだけ還元するか、品質を保てるか、販売カテゴリーがどう変わるかによって結果は変わる。FY2026 10-K:p.7、p.10

人への支出も、この仕組みの外側にある費用ではない。会社によると米国の時間給従業員の平均時給はFY2026末に約33ドルで、米国・カナダの勤続1年以上の従業員の定着率は約94%。高い処遇が採用・育成のやり直しや現場の混乱を抑える可能性はあるが、その因果効果を金額で分離した開示はない。賃金上昇を吸収するには、引き続き販売量と生産性が必要となる。FY2026 10-K:p.6

3. 会費の質を見るには、「人数」と「単価」と「継続」を分ける

指標FY2024FY2025FY2026
会費収入、百万ドル4,8285,3235,907
期末有料会員数、百万人76.281.084.1
期末Executive会員数、百万人35.438.742.3

出典:FY2026 10-K:p.5、pp.26–27、37。会員数は期末時点、会費収入は通期のフロー。会員数には失効後一定期間内の未更新会員も含まれるため、厳密な「現在課金中の契約数」ではない。

FY2026の会費収入は約11.0%増えたが、有料会員数は約3.8%増。Executive会員数は約9.3%増で、上位会員化と過去の値上げが収入の伸びを支えている。FY2025の有料会員数の伸びは約6.3%だったため、会費の二桁増をそのまま新規顧客獲得の勢いと読むのは誤りになる。

会社は、2024年9月の米国・カナダの年会費引上げが、FY2026の会費増加額の約30%に寄与したと説明している。これは「会費総額の30%」でも「会費成長率が30%」でもない。会費は受け取った日に全額売上になるのではなく、返金を控除して会員期間の1年間にわたり認識されるため、価格変更の損益効果は時間をかけて表れる。FY2026 10-K:p.27、p.48

FY2026末の更新率は米国・カナダ92.3%、全世界89.8%。FY2025末の公表値と同じ水準である。ただしこれは直近月の解約率ではなく、報告日より7~18か月前の期間を対象にした後追いの計算で、直近6か月に期限を迎えた会員は除外される。足元の満足度低下があっても、指標に表れるまで時間がかかる。年度ごとの会員構成も異なるため、同一顧客集団の追跡データとしては扱わない。FY2026 10-K:p.5、FY2025 10-K:pp.5–6

Executive会員はFY2026末の有料会員数の約50.3%を占め、年間売上の約75.2%を生んだ。価値の高い顧客層である一方、「加入したから購買額が増えた」のか「もともと購入額が多い人が加入した」のかは、この比率だけでは判別できない。一般に対象購入額の2%を還元する特典は売上控除として処理され、FY2026の純売上減額は3,383百万ドル。追加会費を、その還元やサービス費用と切り離して評価すべきではない。FY2026 10-K:p.5、p.48

「会費=利益」が成り立たない理由

FY2026の損益は次のように分解できる。単位は百万ドル。

  • 商品売上高297,247 − 商品原価264,279 = 商品粗利益32,968
  • 商品粗利益32,968 − 販管費27,190 = 5,778
  • そこに会費5,907を加えて、営業利益11,685

会費は営業利益の約50.6%に相当する。しかし、これは会費事業の利益率を示さない。会社は会員獲得・維持費用をすべて会費部門に配賦した損益を公表しておらず、商品販売と会員サービスは同じ設備・従業員・ブランドを共有する。会費を引いた5,778百万ドルも、独立した「商品事業の営業利益」ではない。FY2026 10-K:p.37、pp.48–49

会費収入がなくなっても同じ商品売上、同じ顧客行動、同じ費用で運営できる、という反実仮想は成立しない。正しくは、会員モデル全体が低い商品粗利でも十分な収益を生む構造、と捉えるべきだ。

4. FY2026の利益改善は、見出しより細かく見る

商品粗利率はFY2025の11.12%からFY2026の11.09%へ3bp低下した。一方、会社がガソリン価格上昇による売上分母への影響を除くと11.22%で、前年比10bp改善する。商品カテゴリー自体の売上を分母にした主要商品カテゴリーの粗利率は15bp改善した。全社粗利率とカテゴリー内の粗利率が異なる方向を向くことは、販売構成が変わる小売では矛盾しない。FY2026 10-K:p.27

販管費率はもっと注意が必要だ。表面上は9.25%から9.15%へ10bp改善しているが、同じくガソリン価格の分母効果を除くと9.26%で、前年比1bp悪化する。したがって、FY2026の販管費率低下をすべて人員効率やデジタル化の成果とみなすことはできない。ガソリン価格が上がると、同じ販売量でも売上額が膨らみ、費用率が低く見えるからだ。

さらに、FY2026にはIEEPA関税還付が含まれる。会社によると還付・利息の受取額は184百万ドルで、うち174百万ドルは商品原価の減額、10百万ドルは利息収入に計上された。一部を会員向け値下げに再投資し、粗利率への純効果はプラス3bp。四半期決算発表では、純利益への非反復的な押上げを希薄化後1株当たり0.15ドルと説明した。これを通常の営業力として翌年へ延ばすべきではない。FY2026 10-K:pp.25、27、2026年9月24日決算発表

逆方向の要因として、米国在庫のLIFO評価(後に仕入れた商品の原価から先に費用にする後入先出法)に伴う費用はFY2025の142百万ドルからFY2026の206百万ドルへ増えた。原価上昇、販売構成、価格還元、還付をまとめた純結果が、報告された粗利率である。「粗利率が下がったから価格競争力が低下」「利益が増えたから値上げが成功」という単純化は避けたい。FY2026 10-K:p.44

5. 在庫を売ってから払える強さと、その限界

FY2026の営業CFは15,817百万ドル、現金設備投資は6,435百万ドル。差額の単純FCFは9,382百万ドルで、FY2025の7,837百万ドルから約19.7%増加した。速報決算では営業CFが15,825百万ドルだったが、本稿は後日の監査済み10-Kの数値を採用する。FY2026 10-K:p.41、速報CF表

この単純FCFの定義は、営業CFに投資CF全額を加える計算とは違う。FY2026の投資CFはマイナス6,378百万ドルで、短期投資の購入・満期やその他投資活動を含む。営業CFとの合計9,439百万ドルを、上記のFCFと入れ替えてはいけない。また単純FCFはファイナンス・リース元本支払を控除していない。注記の該当支払89百万ドルまで差し引く参考値は9,293百万ドルとなる。買収、配当、自社株買いもこのFCFには含めていない。FY2026 10-K:p.41、p.54

現金創出の強みは運転資金に表れる。期末の在庫は19,324百万ドル、買掛金は22,591百万ドルで、「在庫−買掛金」はマイナス3,267百万ドル。前年末のマイナス1,667百万ドルから、仕入先から受けている資金面の支えが大きくなった。会社も営業CF増加の理由として増益に加え、在庫回転の改善と支払条件の改善を挙げている。FY2026 10-K:p.29、p.39

ただし、期末残高差とCF計算書の変動額は一致しない。FY2026のCF計算書では在庫が1,153百万ドルの資金使用、買掛金が2,755百万ドルの資金流入で、合計1,602百万ドルの押上げ。為替換算などを含む貸借対照表の単純差とは分けて読む。期末の一日だけを見て、すべての商品の代金を販売後に払っていると断定することもできない。

この資金循環は成長すると有利に働くが、支払条件には限界がある。需要減速や在庫滞留、仕入先の条件変更が重なると、利益が維持されていても現金創出は弱くなりうる。翌年のFCF予測で、今年の運転資金改善を毎年当然に繰り返す前提は置かない。

もう一つの前受けが会費だ。FY2026末の繰延会費は3,006百万ドル、前年末は2,854百万ドル。これはすでに受け取った会費のうち、将来の会員期間に対応する未認識部分である。年額会費収入5,907百万ドルとは別の残高で、両者を足して「会費ビジネスの売上」とすることはできない。繰延額の増加は資金面では助けになるが、今後サービスを提供する義務を伴う。FY2026 10-K:p.39、p.48

なお、営業CFには株式報酬924百万ドルの非現金加算が含まれる。現金支出ではなくても株主の希薄化につながる費用であり、FCFをそのまま株主に無償で分配できる金額とは扱わない。FY2026 10-K:p.41

6. 高い資本効率と、増える再投資

利益率の低い会社でも、資産を何度も回転させれば資本効率は高くなりうる。比較の再現性を優先し、本稿は「総収入/期首・期末平均総資産」と「営業利益/同平均総資産」を用いる。後者は税前の営業総資産利益率であり、ROICやROEではない。現金、使用権資産、金融資産も分母に残している。

FY総資産回転率営業総資産利益率
20223.68回12.63%
2023*3.57回11.96%
20243.67回13.38%
20253.75回14.13%
20263.65回14.07%

*FY2023のみ分子を52/53倍した参考比較。分母は各年期首・期末の単純平均。会社開示値から本稿計算。FY2022 10-K:貸借対照表、FY2023 10-K:pp.34、36、FY2025 10-K:p.39、FY2026 10-K:pp.37、39

FY2026は営業利益率が上がっても、総資産回転率は下がり、営業総資産利益率はおおむね横ばいだった。期末現金の増加も分母を大きくするので、これを直ちに店舗の生産性悪化とは読めない。一方で、利益の成長だけを見て資本効率も改善していると決めつけることもできない。

現金設備投資はFY2025の5,498百万ドルからFY2026の6,435百万ドルへ約17.0%増加した。減価償却・償却費2,674百万ドルの約2.41倍である。ただし差額をすべて成長投資とすることはできない。設備の取得価格と過去の償却原価は異なり、維持、改装、物流、ITなどが混在するためだ。

会社はFY2027の設備投資を約7,500百万ドル、開業を最大33店、うち移転5店と計画している。FY2026の開業28店、うち移転3店に比べた拡大計画である。これは会社計画であり、達成実績でも本稿の予測でもない。新店は当初の利益率が既存店より低く、近隣店の売上を奪う可能性もあるため、「店が増える」と「一株価値が増える」の間には投資回収の検証が必要となる。FY2026 10-K:pp.24、29、41

地域別にはFY2026の営業利益率が米国約3.48%、カナダ約5.19%、その他海外約4.51%だった。いずれも会費込みの地域総収入を分母にした計算である。海外の成長余地は魅力だが、地域の成熟度、会費構成、物流、為替、費用配分が異なる。この横断比較だけから、新しい国への出店が米国より高収益になるとは予測できない。FY2026 10-K:p.63

7. 株主還元は余力の使い道として評価する

FY2026の現金配当支払は2,458百万ドル、自社株買い支払は848百万ドル。営業CFと設備投資の差額に比べて還元額は小さく、期末の現金・短期投資は21,301百万ドルまで積み上がった。長期借入債務の帳簿価額は流動部分を含め6,162百万ドルで、別途ファイナンス・リース債務1,413百万ドル、オペレーティング・リース債務2,606百万ドルがある。現金余力は大きいが、買掛金、会員への還元、前受会費など、運営上の義務も忘れてはいけない。FY2026 10-K:pp.39、41、52–54

自社株買いを行っていても、FY2026の期末発行済株式数は443.266百万株で、前年の443.237百万株とほぼ変わらない。従業員向け株式報酬との組合せで見る必要がある。買戻しをした金額だけで、大きな一株利益押上げを想定しない。FY2026 10-K:p.40

また、FY2024の現金配当支払9,041百万ドルには特別配当が含まれる。通常年の配当と特別配当を混ぜて、安定的な配当利回りを計算するのは不適切だ。直近2026年10月14日の発表では、四半期配当は1株1.47ドル、基準日は10月30日、支払日は11月13日となっている。これも将来の特別配当を約束する情報ではない。FY2026 10-K:p.41、Note 6、2026年10月14日配当発表

本稿の評価では、還元より先に確認すべきなのは、追加出店と物流・ITへの再投資がどれだけ有効かである。現金を多く持つことも、大きく返すことも、それだけでは価値創造の証拠にならない。

8. 最新の月次は強いが、比較条件も強い

2026年9月の小売月は10月4日までの5週間。商品売上高は300.2億ドルで前年同期間比13.0%増、全社既存店売上は11.4%増、ガソリン価格と為替の影響を除くと7.6%増だった。会社は米国・カナダのLabor Dayの時期ずれが、総売上・既存店売上の伸び率を50bp強押し上げたと説明している。2026年10月7日月次発表

FY2026通期の既存店売上は公表値8.4%増、ガソリン価格・為替除外では6.6%増。9月の調整後数値はこれを上回るが、祝日効果が残り、単月と通年でも期間が違う。価格調整後の既存店成長も、数量だけを測ったものではない。ガソリン以外の商品価格や購入構成の変化は含まれる。FY2026決算発表

デジタル売上の読み方にも区切りがある。会社は2025年9月売上発表から、従来のEcommerce指標を、倉庫店・配送センターで履行するデジタル起点の売上やCostco Travelを含む「Digitally-enabled」に変更した。FY2026は総商品売上高の11%を占めるが、これは商品別売上と別に加算できる独立事業ではない。過去のEcommerce成長率をつないで、同一定義の長期成長曲線を作るべきではない。2025年10月8日月次発表、FY2026 10-K:p.5

9. 将来の見方:数字を当てる前に、仮説を壊す条件を決める

以下は本稿の定性的な仮説であり、会社予想や業績予測ではない。

中心的な見方:価値提供を維持し、規模を少しずつ積み上げる

低価格、継続率、在庫回転の組合せが続くなら、店舗と会員数の増加に伴って利益も成長する余地がある。ただし、過去の会費値上げ効果が薄れる局面では、会費収入の成長を人数増加と上位会員化で支える必要がある。販売量を増やしてもガソリン調整後の販管費率が悪化し続ける、あるいは更新率が遅れて低下するなら、この見方の強さを下げる。

上振れの見方:会員価値を高めながら、追加投資の効率も上がる

Executiveの利用価値、デジタルの使いやすさ、地域ごとの適切な出店が購買頻度と継続に結びつけば、既存の顧客基盤をさらに活用できる。ただし、デジタル売上だけが伸びても、店舗からの移行や低粗利の商品構成なら十分ではない。会員数、ガソリン・為替除外の既存店売上、調整後費用率、資産回転が同時に改善することを確認したい。配送負担の増加だけが目立つなら上振れ仮説は弱まる。

下振れの見方:客数の勢いより費用と投資が先に増える

会費収入は過去の値上げと期間配分に支えられ、更新率も遅行する。そのため、来店頻度や新規会員の伸びの鈍化が先に起きても、決算の見た目がしばらく保たれる可能性がある。新店の投資負担、賃金・物流費、競合の利便性向上、商品品質への不信が重なれば、薄い利益率に響く。逆に、調整後既存店売上と会員数が持ち直し、在庫が無理なく回っているなら、この下振れ仮説は後退する。

投資家が追うべきなのは、総売上の見出しだけではない。「来店・会員の動き」「商品と費用の分母をそろえた採算」「在庫と支払条件を含む現金」「新しい資産が働く速さ」を一緒に見ることで、会社の説明と実際の変化を照合できる。

10. 事業への評価と、株式への評価

Costcoには、価格の信頼、会員との継続的な関係、集約された仕入れ、速い回転という、互いを支える強みがある。10年の実績は、それが売上と営業利益の拡大につながってきたことを示している。

一方、株主が得るリターンは購入価格にも左右される。FY2026の希薄化後EPSは20.76ドルだが、一時的な還付益や税効果を含む実績値である。将来EPSにどの程度の持続成長を織り込むか、再投資にどれだけ現金が必要か、成長が鈍った場合に市場がどの倍率を支払うかを考えなければ、株価の妥当性は判断できない。FY2026 10-K:pp.25、28、37

本稿は基準日の取引所終値を一次情報で照合していないため、「現在のPER」「割安・割高」「目標株価」は提示しない。会社自身も、高い将来期待を満たせない場合の株価下落リスクを開示している。優れた事業だから任意の価格で買える、という結論にはならない。FY2026 10-K:p.16

結論は、会費の大きさよりも、会員に返す価値と株主に残る現金の両立を見ること。Costcoの強さは、その両方を長く続けてきた点にある。これからも続くかどうかは、会員継続、価格調整後の成長、投資回収、運転資金の四つを通じて検証できる。

本稿は企業理解のための一般的な投資情報であり、特定の銘柄の売買を推奨するものではない。

資料と計算方法

以下はすべて会社のIRまたはSECの一次資料。提出日と決算対象日を分けた。HTMLのページは文書内の印刷ページ、PDFのページは表紙を1とするファイル通しページである。公表日が確認できた10-Kを正式な公表日の基準とし、後日作成されたAnnual Report PDFには10-K提出日をそのPDFの公開日として流用していない。

  1. FY2026 10-K:SEC提出2026-10-07、受理2026-10-06、対象2026-08-30終了52週。Business pp.3–7、Risk Factors pp.9–18、MD&A pp.23–30、損益p.37、BS p.39、株主資本p.40、CF p.41、会計方針pp.42–50、負債・リースpp.52–55、セグメントpp.63–65。HTMLを使用。本文/提出日確認
  2. FY2026決算発表:2026-09-24、対象16週の第4四半期および52週通期、いずれも2026-08-30終了。未監査の速報値は年次10-Kと照合。発表全文
  3. FY2025 10-K:SEC提出2025-10-08、対象2025-08-31終了52週。BS p.39、会員pp.5–6。本文。公式Annual Report PDFではBSはファイル43ページ、CFは45ページ。公式PDF
  4. FY2023 10-K:SEC提出2023-10-11、対象2023-09-03終了53週。損益p.34、BS p.36、CF p.38、会計方針p.39。本文。公式Annual Report PDFでは損益はファイル41ページ、BSは43ページ、CFは45ページ。HTMLとPDFの印刷ページ番号も異なるため、ファイルページで指定。公式PDF
  5. FY2020 10-K:SEC提出2020-10-07、対象2020-08-30終了52週。損益p.35、CF p.39、収益認識・新基準pp.46–49。本文
  6. FY2018 10-K:SEC提出2018-10-26、対象2018-09-02終了52週。FY2017比較列は2017-09-03終了53週。損益p.37、CF p.40、会計方針pp.41–49。本文。公式Annual Report PDFでは損益はファイル43ページ、CFは46ページ。公式PDF
  7. FY2022 10-K:SEC提出2022-10-05、対象2022-08-28終了52週。FY2021末総資産などのBS比較値を使用。本文
  8. 2026年9月売上:2026-10-07公表、対象2026-10-04までの5週間。全文
  9. 四半期配当:2026-10-14公表。基準日2026-10-30、支払日2026-11-13。全文
  10. 2025年9月売上:2025-10-08公表、対象2025-10-05までの5週間。デジタル指標の定義変更を確認。全文

前年比は当期÷前年−1。CAGRは期末値÷期初値を年数の逆数乗して1を引く。53週の機械的調整は52/53倍で、季節性や特別要因を除去するものではない。