ADPは、企業の給与計算や人事業務を継続して引き受ける会社である。毎回の給与支払いを正確に処理し、税務や福利厚生まで支えるため、顧客との関係が長く続きやすい。そこに、給与や税金の支払いまで一時的に預かる資金の利息が加わる。事業の強さを判断するには、サービスの利用が増えて稼ぐ利益と、金利・運用期間から生まれる利益を分けて読む必要がある。
2026年6月期は増収増益だった。ただし、売上の増加には利益をほとんど生まない福利厚生費の通過額が含まれ、主力のEmployer Servicesが伸びる一方で、PEO Servicesの利益は減少した。現金創出力は強いが、設備と無形資産への投資を差し引いた現金の大部分を配当と自己株式取得に使っている。継続収益の安定性だけでなく、成長の中身と還元後の余力が重要な会社だ。
情報基準日:2026年10月19日19時(日本時間)。2026年7月29日の通期決算発表、8月5日提出のForm 10-K、および基準日までの公式発表を確認した。ADPの決算期末は6月30日。「2026年6月期」は2025年7月〜2026年6月を指す。最新公表四半期は2026年4〜6月の第4四半期であり、2026年7〜9月の第1四半期実績はまだ公表されていない。次回発表は10月28日予定。金額は特記がない限り百万米ドル、EPSと1株配当は米ドル。株価、PER、目標株価は扱わない。公式決算予定
1.利益の土台は、毎回の給与処理とその周辺業務
Employer Services(以下ES)は、給与計算、人事管理、勤怠、福利厚生管理、法令対応などを提供する。小規模企業向けのRUN、中堅企業向けのWorkforce Now、大企業向けのLyric HCMなどを使い分け、企業の規模や国をまたいでサービスを広げる。顧客が自社の人事システムを別会社から調達していても、給与の実行や税務処理をADPに任せる場合がある。
売上を伸ばす経路は、新規顧客の獲得、既存顧客の継続、追加サービスの販売、価格改定、処理対象となる従業員の増加である。給与を支払うたびに需要が生まれる点は強みだが、従業員数や給与額の変化にも影響される。給与計算を外注する会社が増えても、顧客企業が雇用を減らせば、処理量や預り資金の伸びが鈍ることはある。
PEO ServicesはADP TotalSourceを通じた人事業務の包括的な受託である。顧客企業とADPが従業員に対して共同雇用の関係を持ち、ADPが給与・税務・福利厚生などの一定の雇用主責任を担う。顧客企業は事業運営や従業員の管理を続ける。ソフトウェア利用料だけを受け取る事業とは、責任も費用構造も異なる。
給与の誤りや支払い遅延は、顧客企業にとって従業員との信頼に直結する。システムの移行にはデータ整備、制度設定、テスト、担当者教育が必要になるため、価格だけでは乗り換えにくい。この移行負担と日々の実務品質が継続利用を支える。ただし、長期に使われることと、解約不能の長期契約で売上が保証されることは別に考える必要がある。2026年Form 10-K、Item 1、印刷6〜12ページ
2.9年間の財務:1株利益の伸びには株数減少も効いている
下表は各年の米国会計基準による実績。売上には顧客預り資金の利息を含む。純利益はNet earnings、EPSは希薄化後。1株配当は各年度に宣言された配当であり、キャッシュ・フロー計算書の支払配当を株数で割った値ではない。
| 6月期 | 売上高 | 純利益 | 希薄化後EPS | 1株配当 | 顧客預り資金の利息 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2018 | 13,274.2 | 1,884.9 | 4.25 | 2.52 | 466.5 |
| 2019 | 14,110.2 | 2,292.8 | 5.24 | 3.06 | 561.9 |
| 2020 | 14,589.8 | 2,466.5 | 5.70 | 3.52 | 545.2 |
| 2021 | 15,005.4 | 2,598.5 | 6.07 | 3.70 | 422.4 |
| 2022 | 16,498.3 | 2,948.9 | 7.00 | 4.05 | 451.8 |
| 2023 | 18,012.2 | 3,412.0 | 8.21 | 4.79 | 813.4 |
| 2024 | 19,202.6 | 3,752.0 | 9.10 | 5.45 | 1,024.7 |
| 2025 | 20,560.9 | 4,079.7 | 9.98 | 6.02 | 1,189.1 |
| 2026 | 21,947.4 | 4,413.5 | 10.94 | 6.64 | 1,354.8 |
2018年から2026年までの増加率は、売上65.3%、純利益134.2%、希薄化後EPS157.4%だった。これは8年間の累計増加率であり、年平均成長率ではない。EPSの伸びが純利益を上回るのは、自己株式取得などによる株数の減少も作用しているためだ。企業全体の稼ぐ力と、1株に帰属する利益の伸びを分けて確認したい。
顧客預り資金の利息は、2019年の561.9から2021年の422.4へ減った後に拡大した。この間も全社の売上と純利益は増えている。利息だけに依存する事業ではない一方、近年の利益成長をすべて給与処理サービスの競争力向上で説明することもできない。
比較上の注意として、2018・2019年の売上は、2020年Form 10-Kで一部PEO福利厚生費を総額表示から純額表示へ修正した後の数値を使用した。この修正は純利益に影響しない。また、上表には買収や為替の影響が含まれるため、売上の長期増加率をオーガニック成長率とは呼ばない。2020年Form 10-K、PDF45・48・50ページ、2023年Form 10-K、印刷45・48ページ、2026年Form 10-K、印刷45・48ページ
3.2026年6月期:売上の増分をそのまま利益の増分と読まない
2026年6月期の売上は21,947.4、純利益は4,413.5、希薄化後EPSは10.94だった。前期比はそれぞれ6.7%、8.2%、9.6%である。本稿の増減率は実額から小数第1位まで計算し、会社が整数で示す成長率とは丸め方を区別している。
会社公表のオーガニック・為替一定売上成長率は6%。ESでは報告成長率7%に対し、オーガニック・為替一定は5%だった。会社の調整は買収・売却の所定期間の影響と為替換算を除くもので、金利収入やPEOの利益ゼロの福利厚生費まで除外するものではない。丸められた各要因を足し引きしても表示値に一致しない場合がある。
売上の増加額1,386.5のうち、PEOの利益ゼロの福利厚生費の増加が318.3、顧客預り資金の利息増加が165.7で、合計484.0、増収額の34.9%を占める。この二つは利益への効き方が異なる。前者は対応する費用も同額増える一方、後者は資金調達費などを考慮する前の運用収入である。残る増収額にも新規稼働、価格、追加サービス、為替などが混在しており、その全額を販売数量の増加には置き換えられない。
ESの新規契約指標であるnew business bookingsは会社公表で6%増の約22億ドル、顧客売上継続率は前期と同じ92.1%だった。bookingsは契約獲得の指標で、当期に認識した売上や入金ではない。特に大企業では導入に時間がかかるため、契約獲得から稼働までの間隔も重要になる。
米国のpays per controlは1%増だった。これはESの一部顧客を同一顧客ベースで見た処理従業員数の増加指標で、ADP全体の従業員数や、毎月公表する米国雇用統計の増加率ではない。雇用の伸びが小さい中で、価格、顧客獲得、周辺サービスがどれだけ補えているかを見るための指標として使う。2026年Form 10-K、印刷27〜35ページ、通期決算資料、PDF2・8・14ページ
4.セグメント:ESの改善とPEOの弱さを同時に見る
セグメント利益は税引前利益であり、全社費用などを調整する前の数値。セグメント売上には内部取引を含むため、単純合計は連結売上と一致しない。
| 指標 | 2025年6月期 | 2026年6月期 |
|---|---|---|
| ES売上 | 13,883.1 | 14,831.4 |
| ESセグメント利益 | 5,008.5 | 5,436.8 |
| ES利益率 | 36.1% | 36.7% |
| PEO売上 | 6,690.4 | 7,128.1 |
| PEOセグメント利益 | 950.5 | 936.1 |
| PEO利益率 | 14.2% | 13.1% |
| PEOの利益ゼロの福利厚生費を除く売上 | 2,401.4 | 2,520.8 |
ESでは継続収益の拡大に、顧客預り資金の利息増加、サービス提供・導入の効率化などが加わった。他方、営業・マーケティングへの支出や、顧客の導入・運用を支える費用も増えている。高い利益率を保つために投資を止めるのではなく、稼働後の顧客基盤を広げながら費用の伸びを管理できるかが焦点になる。
PEOは増収でも、セグメント利益が1.5%減った。売上増加額437.7のうち318.3は利益ゼロの福利厚生費で、増収額の72.7%を占める。福利厚生費を除いた売上の伸びは会社公表で5%、年間平均の対象従業員数は約762,000人で2%増だった。
ここには二種類の問題がある。まず、利益ゼロの通過額が増えるだけでも、売上を分母にした利益率は薄まる。それとは別に、2026年は営業費用、労災補償や州の失業保険に関する費用などが増え、利益額自体も減った。利益率低下を表示上の問題だけで片付けることはできない。
PEOでは給与・給与税などの直接通過額は売上から控除されている一方、一定の福利厚生費は売上と費用の双方に計上される。「立替費用」という言葉だけで全項目が同じ会計処理だと思い込むと、売上規模や利益率を読み違える。純粋なソフトウェア会社との売上倍率比較にも、この違いが残る。2026年Form 10-K、印刷31〜32・45ページ
5.最新四半期:調整後利益の伸びには調整項目もある
最新公表実績は2026年4〜6月で、前年同期間と比較する。通期と四半期を混ぜず、以下の調整後指標は会社定義の非GAAP指標とする。
| 指標 | 2025年4〜6月 | 2026年4〜6月 |
|---|---|---|
| 売上高 | 5,126.8 | 5,473.8 |
| 純利益・GAAP | 910.6 | 978.6 |
| 希薄化後EPS・GAAP | 2.23 | 2.45 |
| 調整後希薄化後EPS | 2.26 | 2.64 |
| ES利益率 | 33.5% | 34.4% |
| PEO利益率 | 13.2% | 12.2% |
四半期の売上は6.8%増、純利益は7.5%増だった。会社公表の調整後EPS成長率は17%だが、GAAPのEPS成長率は実額計算で9.9%となる。2026年第4四半期に計上した事業体制再編の費用91.1などが調整後利益から除かれているため、両者は同じ内容ではない。
通期の調整後EBITは5,874.6、利益率は26.8%で、前期の5,347.1、26.0%から改善した。ただし、ADPの調整後EBITは、顧客資金の運用戦略に関連する受取利息と資金調達費を残す定義である。一般的な「利息をすべて除いた営業利益」と同じではない。
事業体制再編が将来の生産性改善につながる可能性はあるが、人員削減等の費用は経済的な負担でもある。調整後指標を見る際は、調整項目の繰り返し、実際の支払い、削減できた費用を追う必要がある。調整後EPSの伸びだけから、給与サービスの利益が同率で伸びたとは判断しない。通期決算資料、PDF5・8・11〜13ページ
6.顧客預り資金:元本と利息を分ける
ADPは給与や税金を支払うための資金を顧客から受け取り、支払いまでの期間に運用する。2026年6月期の平均顧客資金残高は約404億ドル、平均利回りは3.4%で、前期は約376億ドル、3.2%だった。残高と利回りの両方が利息収入を押し上げた。
一方、2026年6月末の顧客資金対応資産は43,957.8、顧客への支払義務は44,415.5である。ADP自身の現金・現金同等物4,230.1とは別に表示されている。顧客資金対応資産は給与等の支払いに充てるための資産であり、株主還元に自由に使える余剰現金に加算しない。
期末残高と年間平均残高にも役割の違いがある。給与支払日や税金の送金日との位置関係で期末残高は大きく動くため、利息を読む際は平均残高、支払能力を読む際は義務と資産・流動性の組み合わせを使う。期末残高の増加を、そのまま新規契約の増加率と扱うこともできない。
運用期間は支払義務の期間より長くなることがあり、ADPは短期調達も併用する。満期を分散することで市場金利の変化が全体の利回りへ徐々に伝わるため、政策金利が下がった時期でも、過去の低利回り資産の入れ替えで運用収入が増える場合がある。逆に短期の調達市場が不安定になれば、保有証券の売却や自社資金による対応が必要になる。
この構造を確認するには、顧客資金の受取利息だけでは足りない。2026年の会社補足表では、顧客資金利息1,354.8に関連するcorporate extended運用収入278.1を加え、短期調達費318.3を差し引いた純寄与は1,314.6だった。前期の純寄与は1,073.3であり、増加率は22.5%となる。corporate extendedの利息を加えた後に全社の受取利息を重ねて足すと、二重計上になる。
運用証券の価格変動にも注意が必要だ。満期まで保有すれば回収できる可能性がある証券でも、流動性確保のため途中で売却すれば評価損が実現する場合がある。信用力だけでなく、支払期日、調達手段、運用期間を一緒に見るべき事業である。決算補足表、PDF9ページ、2026年Form 10-K、印刷36〜39・47・62〜63ページ
7.キャッシュ・フロー:ソフトウェア投資まで差し引く
本稿では比較用のFCFを「営業CF−CF計算書の設備投資支出−無形資産取得支出」と定義する。買収、証券売買、配当、自己株式取得は控除しない。会社が公表する特定のFCF指標と同一だとするものではなく、継続的な再投資後の現金を確かめるための本稿計算である。
| 指標 | 2024年6月期 | 2025年6月期 | 2026年6月期 |
|---|---|---|---|
| 営業CF | 4,157.6 | 4,939.7 | 5,441.2 |
| 設備投資支出 | 208.4 | 168.7 | 196.6 |
| 無形資産取得支出 | 355.0 | 378.3 | 468.5 |
| 上記定義のFCF・本稿計算 | 3,594.2 | 4,392.7 | 4,776.1 |
2026年の営業CFは10.2%増えたが、上記FCFの増加率は8.7%だった。設備投資と無形資産取得支出の合計は665.1で、売上の3.0%に相当する。物理的設備の支出だけを差し引くと、ソフトウェアなどの重要な再投資を落としてしまう。
さらに、研究開発費1,028.8は損益計算書ですでに費用化されている。これをCFから再度全額控除するのは二重計算になる。会社の「研究開発投資」という説明値には費用、ソフトウェア投資等が含まれ得るため、CFの無形資産取得支出とも単純に足し合わせない。
営業CFの増加には回収・支払いの時期も寄与する。2026年は未払費用等の増加が410.1の現金押上げになっている一方、繰延契約コストの増加が1,307.9の資金を使った。販売手数料や導入費用を資産計上した後、顧客関係の期間にわたって償却するため、利益と現金の計上時期がずれる。顧客獲得が増える局面では、売上が十分に立つ前に現金を使うこともある。
繰延契約コストは営業CFに含まれているため、上記FCFからさらに差し引かない。他方、顧客資金の受払は財務CF、運用証券の売買は投資CFに大きく表れる。営業CFと投資CFを丸ごと合計すると、通常の設備・ソフトウェアへの再投資と、顧客資金の運用を混ぜることになる。
2026年のCF計算書にある期末現金等10,625.2には、顧客向けの制限付き現金等6,395.1が含まれ、自社の現金等は4,230.1である。顧客資金債務の増加に伴う財務CF流入13,242.6を、ADPが稼いだFCFに加えることも適切ではない。2026年Form 10-K、印刷28・40・49・58・63ページ
8.資本配分:大きな還元は、残る余力とセットで読む
2026年の現金支出ベースの配当は2,626.3、自己株式取得は2,083.3で、合計4,709.6だった。上記定義のFCF4,776.1に対する比率は98.6%、差額は66.5である。事業が現金を生む力は大きいが、この年の還元後に残った現金を同じ勢いで買収へ回せるわけではない。
この差額は資金不足を意味しない。既存の自社現金や借入も資金源になる。ただし、配当、買い戻し、成長投資を同時に拡大する場合は、毎年の営業CFだけで賄うのか、現金を減らすのか、負債を増やすのかを確認する必要がある。
WorkForce Softwareの買収は2024年10月に実行され、取得対価は1,170.8、取得現金を除く支払額は1,158.3だった。大企業向けの勤怠・要員管理を補完する買収だが、売上を取り込むことと、買収価格に見合う利益・現金を得ることは別である。統合後の受注、顧客への追加販売、開発・導入コストを追いたい。
2026年1月に承認された自己株式取得枠は60億ドルで、従来の枠を全面的に置き換えた。これは実行額や完了期限の約束ではない。配当については、8月5日に1株1.70ドルの四半期配当を宣言した。これを機械的に4倍して、2027年6月期の確定年間配当とすることは避ける。
買い戻しはEPSの分母を減らすが、株式報酬等による株式発行が一部を相殺する。2026年の希薄化後平均株式数は403.3百万株で、前期の408.7百万株から減少した。買い戻し額だけでなく、この純減も見たい。市場価格を検証していない本稿では、取得価格が割安だったかまでは判断しない。2026年Form 10-K、印刷25・45・49・58〜59ページ、自己株式取得枠の発表、8月5日の配当発表
9.ROIC:どの資本で、どの利益を稼いだか
ROICは通常、税引後の事業利益を、その利益を生むために使った平均投下資本で割って考える。ADPでは、顧客資金を含む総資産をそのまま分母にする方法と、株主資本と有利子負債から現金を引く方法では、結果が大きく異なり得る。
理由は、顧客資金対応資産と支払義務が両側に大きく計上される一方、そこから得る運用収入が事業の一部だからだ。資産だけを分母から除いて利息利益をすべて残す、あるいは顧客資金を自社余剰現金として控除する計算では、分子と分母の対応が崩れる。顧客資金戦略を外すなら、関連する利益と調達費も整合的に扱う必要がある。
また、給与プラットフォームの開発や顧客獲得には継続投資が必要である。費用化される研究開発は帳簿上の資本に残りにくく、買収で得た顧客関係やのれんは残る。内製と買収の比率が違う会社同士を、調整なしのROICだけで順位付けするのは難しい。
自己株式取得による資本縮小もROEを押し上げる。本稿では、顧客資金戦略の資本と税後利益を同一定義で切り分けたROICを算出していない。代わりに、長期の利益、再投資後のCF、買収に使った資金、株数の変化を併せて評価する。資本効率の良さを主張する際にも、還元で分母が小さくなった効果と、事業利益が増えた効果を分けるべきだ。
10.競争とAI:画面の使いやすさと実行能力を両方見る
競争相手は給与・人事の受託会社、クラウドHCM、ERP、企業の内製システムなど幅広い。小規模企業では導入の簡単さや価格、大企業では既存システムとの連携、多国籍対応、正確性、導入支援が重要になる。ADPの顧客基盤が大きいことだけで、すべての領域で優位が続くとは限らない。
競争と協業が同時に存在する点も特徴だ。Workdayは自社の給与・人事基盤を展開する一方、Global Payroll ConnectのパートナーとしてADPを挙げている。顧客が人事の中核システムを他社製品へ移しても、給与・税務処理までADPから離れるとは限らない。逆に、接続先が増えるほど、データ同期や障害の切り分けが利用体験を左右する。Workday公式発表
ADPはAIを顧客向けの操作支援だけでなく、営業、サービス、開発にも展開している。問い合わせの処理や設定作業を効率化できれば、対応品質と採算の両方を改善する余地がある。一方、競合も同じ方向へ投資するため、AI機能が増えたこと自体を恒久的な差別化とは扱わない。
給与計算では、もっともらしい回答より正しい計算と期限内の実行が重要である。AI導入の成果は、利用回数だけでなく、エラー率、導入期間、顧客継続、追加販売、サービス費用にどう表れるかで判断したい。利用促進のための開発費やクラウド費用が先に増え、収益化が遅れる可能性もある。2026年Form 10-K、Item 1・Item 1A、印刷4〜10・14〜22ページ
11.2027年6月期会社予想:金利収入と雇用の前提を区別する
7月29日公表の会社予想は、連結売上成長率5〜6%、調整後EBIT利益率の改善幅0.70〜0.90ポイント、調整後EPS成長率9〜11%である。ESでは米国pays per controlを0〜1%増、顧客売上継続率を前期比0.10〜0.30ポイント低下と見込む。雇用と継続率の前提は、全面的な加速を想定しているわけではない。
PEOの会社予想は売上5〜7%増、利益ゼロの福利厚生費を除く売上3〜5%増、平均対象従業員数約2%増。ここでも表示売上の成長率と、通過費用を除いた伸びを分けている。
顧客資金の利息予想は1,540〜1,560、平均残高の伸びは3〜4%、平均利回りは約3.7%。関連運用収入と短期調達費を加減した運用戦略全体の純寄与予想は1,545〜1,565である。金利前提は7月28日時点の先物・フォワードカーブに基づくため、10月19日時点の市場予測へ自動更新された値ではない。
この予想が実現しても、それだけで給与サービスの需要が加速したとはいえない。金利運用の改善と、顧客数・処理量・価格による成長が、どの組み合わせで利益を押し上げるかが重要だ。会社の公表範囲を超える独自EPS予想や、現在株価に基づく割安判断は行わない。会社予想、PDF3〜4ページ、運用戦略の前提、説明資料PDF9ページ
12.リスクと、次に確認する数字
最も直接的なリスクは顧客企業の雇用・資金繰りの悪化である。処理対象の減少、新規契約の稼働遅れ、解約、預り残高の鈍化が重なる可能性がある。継続率が高くても、需要が景気から完全に独立するわけではない。
次に、資金の取り扱いとデータに関するリスクがある。給与・税金の送金障害、サイバー攻撃、不正、個人情報の流出は、賠償や復旧費用に加えて顧客の信頼を損なう。運用資産の流動性、短期調達、法令への対応は、裏方の事務ではなく事業の競争力を維持するための条件である。
PEOでは労災や保険、失業関連費用の変動も見る必要がある。再保険などでリスクを管理していても、保険料や損害見積もりが利益へ影響する。売上が伸びれば同じ割合で利益も増えるという前提は置けない。2026年Form 10-K、Item 1AおよびPEO分析
次回決算では、以下を順に確認したい。
- ESの新規契約獲得が実際の稼働・売上へ移り、継続率と同一顧客の処理人数が会社前提に沿っているか。
- ESの利益率改善が、顧客資金利息だけでなく、導入・サービスの効率化を伴っているか。
- PEOの通過費用を除く売上と利益額が回復し、労災・失業保険・営業費用の伸びを吸収できるか。
- 顧客資金の平均残高、運用利回り、関連調達費を合わせた純寄与が、7月時点の予想からどう変わったか。
- 営業CF、ソフトウェア等の再投資、株主還元の関係が維持され、現金や負債に無理が生じていないか。
ADPを評価する軸は、給与という繰り返し発生する業務を、正確に、低い追加コストで、より広い範囲まで引き受けられるかにある。その実力を、顧客資金の利息が補強し、現金創出と株数減少が1株利益につなげる。継続率、金利、PEOの費用、再投資後の現金を別々に追うことで、このつながりが健全かどうかを判断しやすくなる。