情報基準日:2026年10月21日。対象は日本基準・連結。最新の業績実績は2026年8月7日公表の2027年3月期第1四半期(2026年4〜6月)、通期実績は2026年3月期です。決算レビューではなく、長期の収益構造を調べる企業レポートです。
最初に結論
SMCは、圧縮した空気を使って工場の部品を押す、つかむ、動かすための機器をつくる会社です。半導体装置だけでなく、自動車、食品、医療機器などの自動化を支えています。価値の中心は、単品の性能だけではありません。必要な種類を、必要な場所へ、短い納期でそろえる供給力です。
厚い在庫と先行投資は、その供給力を守るための資産です。ただし、持っているだけで利益になるわけではありません。2026年4〜6月は数量回復を確認できましたが、増益には為替や在庫評価の改善も含まれます。今後は売上成長よりも、増やした設備と在庫が継続的な利益・現金に変わるかを見たい局面です。
- 2026年3月期は売上高8,425.41億円、営業利益1,905.58億円。売上高は前年同期比6.4%増でも営業利益は0.2%増にとどまりました。
- 2027年3月期第1四半期は売上高2,709.87億円、営業利益739.86億円。前年同期比はそれぞれ35.4%増、66.4%増ですが、純利益の伸びをそのまま本業の改善率にはできません。
- 2026年3月期の営業CFから有形・無形固定資産の取得支出を引いた独自定義FCFは345.32億円。前年の888.54億円から減っています。
上記実績は2026年3月期決算短信(2026年5月14日、PDF1・8・12ページ)と第1四半期決算短信(2026年8月7日、PDF1・7ページ)に基づきます。FCFは後半で定義を説明します。事業の成長余地と現在株価の割安さは別問題であり、本稿は買い推奨や目標株価を示すものではありません。
なぜ多品種・即納が利益につながるのか
工場で使う空気圧機器には、圧力や空気の流れを調節する機器、バルブ、シリンダなどがあります。部品自体の価格が低くても、欠品で生産ラインが止まる損失は大きい。SMCは関連機器をまとめて供給し、設計・保守の負担を減らすことで選ばれようとしています。
会社は、豊富な品ぞろえと直販・代理店網を強みとして説明しています。採用された製品は、顧客が装置の図面を更新するまで同じものが継続購入される傾向があるとも述べています。これは「必ず買い続ける契約」ではなく、部品を切り替えるための評価や設計変更が必要になるという性質です。筆者は、製品の小型化や省エネ性能と、供給の確かさが組み合わさって参入障壁になると考えます。有価証券報告書(2026年6月26日提出、PDF8〜10・34ページ)
売上の認識も確認しておきます。受注しただけでは売上になりません。契約条件に従って製品の支配が顧客に移り、引き渡しや貿易条件に基づくリスク移転が成立した時点で売上を認識します。その後に売掛金を回収して、初めて現金になります。受注、売上、営業CFはそれぞれ違う段階です。同報告書PDF81〜82ページ
この仕組みの裏面は、売れる前に在庫や生産能力へ資金を置くことです。供給余力が需要回復期に効く一方、回復が遅れれば償却費や在庫評価の負担が先に来ます。単に「在庫を減らせばよい」とは言えませんが、「戦略在庫だから心配ない」とも言えません。
10年で売上は増えたが、利益率は一定ではない
以下は各年3月期の通期実績です。金額は億円、小数1桁に四捨五入。営業利益率とROEは会社公表値で、ROEは株主資本に対してどれだけ純利益を生んだかを見る指標です。
| 3月期 | 売上高 | 営業利益 | 営業利益率 | ROE |
|---|---|---|---|---|
| 2017 | 4,876.3 | 1,411.1 | 28.9% | 11.5% |
| 2018 | 5,910.4 | 1,924.3 | 32.6% | 12.6% |
| 2019 | 5,769.5 | 1,802.0 | 31.2% | 10.9% |
| 2020 | 5,260.0 | 1,462.5 | 27.8% | 8.9% |
| 2021 | 5,521.8 | 1,533.6 | 27.8% | 9.3% |
| 2022 | 7,274.0 | 2,278.6 | 31.3% | 13.2% |
| 2023 | 8,247.7 | 2,582.0 | 31.3% | 13.8% |
| 2024 | 7,768.7 | 1,962.3 | 25.3% | 10.0% |
| 2025 | 7,921.1 | 1,902.4 | 24.0% | 8.2% |
| 2026 | 8,425.4 | 1,905.6 | 22.6% | 8.3% |
出典:Annual Report 2025(2025年8月28日、PDF4〜5ページ)、2026年3月期決算短信PDF1ページ。円換算・各年の連結範囲による公表値で、為替一定・同一連結範囲に調整した成長率ではありません。
売上の規模が拡大しても、営業利益が同じ割合で増えるわけではありません。需要、生産稼働率、製品構成、為替、投資後の費用負担が動くためです。2023年3月期の営業利益率31.3%を通常状態と決めつけるのも、2026年3月期の22.6%が今後ずっと続くと決めつけるのも早計です。
2026年3月期には、小規模子会社を新たに連結した影響もあります。会社の増収分析では、前年からの増収504億円の内訳は数量312億円、価格48億円、為替74億円、連結範囲拡大70億円です。したがって6.4%の増収すべてが既存事業の実需増ではありません。金額は会社説明資料の億円単位の表示で、短信の百万円単位とは丸めが異なります。2026年3月期決算説明資料(2026年5月14日、PDF20ページ)
同資料の営業利益増減分析では、数量と価格、在庫評価の改善がプラスでも、加工費・材料費等、販管費、米国関税の影響が利益を押し下げています。在庫評価による前年差144億円の改善があっても、営業利益全体の増加は約3億円でした。この期の横ばいは「需要が全く戻らなかった」のではなく、戻った需要の効果を費用負担が吸収した姿と読めます。同PDF20ページ
最新四半期は数量回復。ただし為替と一時要因を切り分ける
2026年4〜6月について、会社は中華圏の半導体・液晶・二次電池投資や、各地域の先端半導体関連需要を説明しています。他方、自動車投資は地域差があり、全業種一斉の好況ではありません。第1四半期短信PDF4ページ
会社の増収分析では、前年同期からの増収708億円のうち、数量448億円、価格3億円、為替257億円でした。数量は前年同期比22.3%増。価格寄与は0.1%増にとどまります。実需回復は確認できますが、35.4%の増収をそのまま数量成長率と呼ぶのは誤りです。第1四半期説明資料(2026年8月7日、PDF3ページ)
営業利益の増加295億円は、数量198億円、価格3億円、為替119億円、在庫評価26億円が押し上げ、加工費・材料費・その他8億円と販管費43億円が押し下げる構成です。為替119億円は取引要因79億円と海外子会社損益の円換算要因40億円からなります。これは営業外の為替差益とは別です。資料の各項目を合計しても端数処理により総額と一致しない場合があります。同PDF3ページ
会社は米国関税還付の一部が原価を引き下げたことも明記しています。ただし、その単独金額を上の「加工費・材料費・その他」から切り出せません。本稿では利益を任意の額で調整せず、次の四半期に同じ効果を見込まないことを注意点とします。販管費も実額では前年同期より増えており、「販管費削減で増益」とは評価しません。増減分析は為替などを別項目に分けるため、販管費の寄与額と損益計算書の販管費の単純差額は同じ数字にはなりません。
さらに、営業外の為替損益は前年同期の13.82億円の損失から60.13億円の利益へ、有価証券売却益は12.83億円から64.36億円へ増えています。純利益が前年同期比95.9%増でも、その全てが製品販売の稼ぐ力の改善ではありません。第1四半期短信PDF7ページ
地域分析は定義にも注意が必要です。販売先の住所で集計する「仕向地」と、SMCグループ会社の住所で集計する「所在地」は異なります。中華圏の所在地集計には台湾も入るため、中国向け販売と同一視できません。数量増の地域内訳も会社の説明資料の区分で読み、地理的な最終需要を推測で補いません。
在庫が強みであるほど、評価と現金を丁寧に見る
2026年3月末の棚卸資産は5,066.98億円で、2025年3月末の4,896.61億円を上回りました。有報には評価損控除前5,970.26億円、評価損903.27億円も開示されています。評価損は期末に累積している残高です。一方、当期損益に入る評価損は、洗替法による戻し入れを差し引くと41.23億円の戻入益でした。評価損残高が増えたことと、当期の利益が評価によって押し上げられたことは両立します。有報PDF82ページ
会社は、長く同じ品番が使われる特性や、完成品になる前の状態で在庫を持つ工夫を説明しています。これには合理性があります。ただし、販売・使用の傾向が変われば評価の前提も変わります。長寿命製品であることは、全ての在庫がそのまま現金になる保証ではありません。
また、貸借対照表の在庫増加を、そのまま営業CFの悪化額と考えることもできません。2026年3月期の営業CF計算では、棚卸資産の増減は129.03億円の資金増加要因でした。期末残高には為替換算や連結範囲変更なども含まれるためです。一方、仕入債務の減少は346.18億円の資金流出要因になっています。利益だけを見ていると、こうした支払いの動きを見落とします。2026年3月期短信PDF12ページ
2026年6月末も会社の在庫分析は、前年度末からの増加を連結範囲、為替、評価、実質増減に分けています。在庫を評価するなら、円表示の残高だけでなく、同じ為替・連結範囲での動きと、売上に対する重さを次回も確認する必要があります。第1四半期説明資料PDF6ページ
FCFの大きさは、定義によって見え方が変わる
FCF(フリーキャッシュフロー)は統一された会計科目ではありません。ここでは製造業の設備負担を見るために、独自に「営業CF−有形固定資産取得支出−無形固定資産取得支出」と定義します。投資CF全体ではなく、実際の設備取得支出を控除します。
| 項目(億円) | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 1,966.56 | 1,889.17 |
| 有形固定資産取得支出 | 1,067.39 | 1,527.01 |
| 無形固定資産取得支出 | 10.63 | 16.84 |
| 本稿定義のFCF | 888.54 | 345.32 |
出典:2026年3月期短信PDF12ページ。FCFは筆者計算。会社が補足資料で示す「設備投資額」と取得支出は一致しないため、混用していません。
会社定義は営業CFと投資CFの合計です。会社公表FCFは2025年3月期2,318.91億円、2026年3月期814.05億円でした。しかし前期の投資CFには保険積立金の払戻収入1,513.99億円があり、当期には定期預金の預入・払戻による純流入が含まれます。どちらも、当期の機器販売が新しく生んだ現金とは異なります。会社定義が誤りなのではなく、資金運用の移動を含む指標と設備負担を見る指標を使い分ける必要があるということです。短信PDF4・12ページ
営業CFは在庫の動きや税金支払時期にも左右されます。本稿のFCFも恒常的な収益力そのものではなく、買収支出を控除した指標でもありません。なお、最新第1四半期にはCF計算書がないため、四半期利益からCFを推定していません。第1四半期短信PDF9ページ
財務の安全性と資本効率は同じではない
2026年3月末の自己資本比率は91.5%です。現金及び預金6,638.70億円から短期借入金50.92億円を差し引く単純な差額は6,587.78億円でした。ここでは有価証券を加えず、リース等も引かない定義なので、「自由に配れる余剰現金」とは呼びません。それでも、借入依存の低さは需要低迷期にも投資や供給体制を維持する余地を示します。短信PDF1・6〜7ページ
反面、ROEは8.3%です。厚い現金、在庫、拠点設備を持つため、高い営業利益率がそのまま高い株主資本の回転効率にはなりません。現金を全部不要と見なすのも、供給網維持の名目で効率を問わないのも極端です。増やした資産に見合う利益が後から付いてくるかが本題になります。
比較対象としてCKDを見ると、同じ日本基準・2026年3月期連結の営業利益率は12.4%、ROEは9.4%です。SMCの22.6%、8.3%と比べると、営業利益率ではSMCが上でもROEの順序は逆です。ただしCKDには自動機械と機器の両部門があり、製品構成や資本構成は同じではありません。空気圧機器だけの利益率や、経営の優劣をこの差から断定できません。CKD決算短信(2026年5月15日、PDF1・19〜20ページ)
競争は国内企業だけではありません。Festoも空気圧と電動の自動化機器を提供し、接続性やデジタル利用環境を含む展開を進めています。SMCの優位性を「空気圧の製品数」だけで測ると、電動化や制御ソフトを含めた選定の変化を見落とす可能性があります。Festoは決算期、通貨、教育事業の有無が異なるため、売上規模や利益率を無理に横並びにしていません。Festo公式発表(2026年4月17日)
先行投資の回収と株主還元
2026年3月期の設備投資額は1,502.54億円、減価償却費は448.46億円。2027年3月期会社計画はそれぞれ1,000億円、623億円です。投資の支払いが減っても、過去に完成した設備の償却費は増える計画です。設備投資額と、前述したCF計算書の取得支出は定義が異なります。短信PDF15ページ
会社は生産能力と供給継続のための大型投資が一巡したと説明する一方、今期計画には前期から後ずれした投資も含むとしています。減額をすべて「将来の成長投資をやめた」と読む必要はありませんが、投資が終わっただけで利益率が戻るわけでもありません。通期説明資料PDF3・9ページ
成長策には非空気圧製品や海外販売網の強化もあります。2026年6〜7月にはオランダ・ベルギーの販売代理店を子会社化しました。狙いは顧客基盤と販売能力の獲得です。オランダの第1四半期連結は貸借対照表のみであり、同四半期の大幅増収をこの買収の売上寄与で説明することはできません。第1四半期説明資料PDF12ページ、短信PDF9ページ
還元では、2026年3月期の年間配当は1株1,000円、2027年3月期の会社予想も1,000円です。2026年9月10日の開示では、5月決議の自己株式取得を終了し、累計720,700株、499.97845億円を取得しています。「500億円の買い余力が今後も残る」と扱ってはいけません。配当予想・短信PDF1ページ、自己株式取得終了開示(2026年9月10日、PDF1ページ)
自社株買いは1株当たり指標に影響しますが、設備の採算を改善する施策ではありません。また、すでに取得していた自己株式の消却を、その時点の新たな現金還元として二重に足さないことも重要です。
会社予想を達成する条件と、結論を変える指標
2027年3月期の会社予想は売上高1兆円、営業利益2,190億円、親会社株主純利益1,700億円です。第1四半期決算で据え置かれています。第1四半期実績を引くと、残る9カ月に必要なのは売上高7,290.13億円、営業利益1,450.14億円で、対応する営業利益率は19.9%です。これは残期間の必要水準の計算であって、新たな業績予想ではありません。第1四半期短信PDF1ページ
第1四半期の営業利益率27.3%と比べれば低い水準です。ただし、通期計画には償却費や増員の負担があり、為替の前提も異なります。四半期利益を4倍して上方修正を確実視することはできません。市場予想との整合確認もしていないため、「市場予想を上回る」とは評価しません。
筆者の見方は、次の3つに分けられます。いずれも確率や未開示の需要予測を置いたものではありません。
- 強気の条件:為替効果を除いた数量の増加が広い業種に続き、既存設備の稼働で費用増を吸収する。在庫が売上に転じ、評価戻入や関税還付に頼らず営業利益率と設備支出控除後の現金創出が改善する。
- 基準の条件:需要は回復するが地域差が残り、投資・増員の負担も増える。まず会社計画の達成と、その後に資本効率が改善する順序を確認する。
- 弱気の条件:数量回復が一服し、価格競争や円高が重なる。厚い在庫の評価見直しと償却負担が残り、売上が増えても利益と現金が伴わない。
感応度をつかむため、売上高を会社予想の1兆円に固定し、営業利益率だけを会社予想の21.9%から上下1ポイント動かすと、営業利益は20.9%で2,090億円、21.9%で2,190億円、22.9%で2,290億円になります。1ポイントの違いは100億円です。これは筆者の機械的な試算で、強気・弱気の業績予測でも適正株価でもありません。数量、為替、製品構成、費用を個別に予測できていないため、実際の幅を示すものではありません。
次回、特に確認したいのは次の点です。
- 数量・価格・為替の増減分析で、数量回復が続くか。前年同期だけでなく前四半期との比較も見る。
- 在庫評価と関税還付を分離して、製品販売からの利益改善が残るか。
- 営業CF、設備取得支出、仕入債務の動きが、利益の回復と整合するか。
- 在庫残高を為替・連結変更から切り分け、販売の増加に対して過度に積み上がっていないか。
- 償却費の増加後も利益率が維持され、長期のROE低下に歯止めがかかるか。
公式IR予定では中間決算は2026年11月13日です。未発表の決算を先取りせず、この確認で「在庫と設備が供給力として働いている」のか、「資本の固定化が長引いている」のかを判定したいと考えます。SMC IRカレンダー
本稿は事業と財務の分析です。最新株価・市場予想との比較や株価反応は検証対象に含めておらず、現在の価格が成長を十分に織り込んでいるかは結論を置いていません。