ホシザキは、飲食店や病院、スーパーなどで使う製氷機・冷蔵庫・食器洗浄機を販売し、保守・修理まで担う会社だ。顧客にとって大切なのは機械の購入価格だけではない。故障による営業停止、電気代、人手不足をどれだけ減らせるかが、製品とサービスの価値になる。
結論は、国内の販売・サービス網と海外の事業拡大には強さがある一方、売上成長だけでは投資成果を判断できない、ということだ。 2026年上期は増収増益だが、買収関連の償却を含めるかで利益の伸び方は変わる。現金回収は改善したものの、運転資本と顧客からの前受けの影響も大きい。今後の焦点は「さらに買うこと」より、買った事業と既存の販売網からどれだけ利益と現金を回収できるかにある。
情報基準日は2026年10月28日。決算は2025年12月期通期と2026年1〜6月累計を扱う。11月12日予定の第3四半期決算は未発表であり、本稿は当日の決算速報ではない。IRカレンダー
売り切りの機械メーカーではない。ただし、すべてが継続課金でもない
会社説明によれば、国内は15の販売会社と426の営業拠点を持ち、営業約3,500人、サービス約2,800人が現場を支える。修理時に機器の状態や厨房の使い方を把握し、更新時に省エネや省人化を提案する。顧客との接点が、次の販売機会と製品改良につながる仕組みだ。統合報告書2026・本文9〜10頁
2025年の保守・修理売上は710.83億円、連結売上の14.6%。2026年上期は393.65億円と前年同期比13.9%増で、国内売上に占める保守・修理の比率は22.3%だった。しかし、この区分には修理も含む。すべてを定額契約や自動更新収入と見なしてはいけない。ファクトブック2025・PDF2頁/中間説明資料・本文9〜10頁
会計上も違いがある。商品・製品は原則として引渡し時に、設置・請負工事は進捗に応じて、保守サービスは契約期間に応じて売上を認識する。売上計上と入金は同じ瞬間ではない。この違いが、後で見る売上債権や契約負債の動きにつながる。2025年短信・本文14〜15頁
競争優位は「保守を行う会社が他にない」ことではない。ガリレイグループも業務用冷蔵庫・製氷機・食器洗浄機を扱い、施工や保守を提供している。比較すべきは、製品価格だけでなく、現場への対応力、故障・更新情報を次の提案につなぐ力、人件費を吸収するサービス生産性だ。製品構成や地域が違うため、ここでは両社の連結利益率を単純に順位付けしない。競合の公式事業説明
6年間で規模は拡大。ただし利益率と現金は一直線ではない
以下は連結・日本基準、12月期、単位は百万円。2024年は買収に伴う取得原価配分の確定を反映した比較値を用いる。調整後利益は会社独自指標のため、まず会計上の営業利益で長期推移を見る。
| 指標 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | 2024年 | 2025年 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 238,314 | 274,419 | 321,338 | 373,563 | 445,495 | 485,890 |
| 営業利益 | 18,447 | 24,931 | 27,378 | 43,520 | 51,050 | 51,932 |
| 営業利益率 | 7.7% | 9.1% | 8.5% | 11.7% | 11.5% | 10.7% |
| 営業CF | 20,734 | 27,343 | 5,170 | 37,698 | 47,344 | 30,528 |
出典:ファクトブック2025・PDF2〜3、8頁、統合報告書2026・本文81〜82頁。営業CFは営業活動によるキャッシュ・フロー。
2020年は感染症の影響を受けた低い比較基準であり、そこからの回復をすべて構造成長と呼ぶことはできない。また、この期間には為替と買収による連結範囲の拡大が含まれる。2025年は売上が9.1%増えた一方、営業利益は1.7%増にとどまった。規模の拡大と、売上から利益を残す力は分けて評価する必要がある。
最新上期の増収を、為替と買収から切り分ける
2026年上期の売上高は273,646百万円、前年同期は238,528百万円。増加額35,118百万円のうち、会社説明の為替効果は7,292百万円だった。差し引いた増加は27,826百万円、前年売上に対して約11.7%となる。ただし、この値にもSCCなどの買収効果が入るため、既存事業の数量成長率ではない。数量・単価・買収を完全に分離できる開示は確認できていない。中間説明資料・本文5〜8頁
製品別では冷蔵庫の増収22,501百万円が全体の増収の64.1%を占め、保守・修理も4,795百万円増えた。製氷機だけの成長物語ではなく、冷蔵設備とサービスへ広がっている。ただし冷蔵庫の増加にも買収企業が寄与しているため、既存製品の競争力が一様に高まった証拠ではない。
地域比較は内部取引を除いた外部顧客向け売上でそろえる。前年上期の比較値は、アリコ取得の取得原価配分(PPA)の確定と、買収関連償却の各セグメントへの配分変更を反映した数値である。利益は買収関連償却・超インフレ会計の影響を除いた会社の調整後営業利益であり、会計上の利益とは異なる。
| 2026年上期 | 外部売上・百万円 | 売上前年同期比 | 調整後営業利益・百万円 | 調整後利益率 |
|---|---|---|---|---|
| 日本 | 122,659 | +6.2% | 19,598 | 16.0% |
| 米州 | 74,156 | +29.1% | 7,636 | 10.3% |
| 欧州 | 29,709 | +10.7% | 3,525 | 11.9% |
| アジア | 47,120 | +21.7% | 8,523 | 18.1% |
出典:中間説明資料・本文6頁。地域は法人の本社所在地による管理区分で、販売先の国別需要を直接表すものではない。連結には地域合計以外の調整も含む。
国内は飲食外市場への拡販と修理・保守、アジアはインドを中心とした販売が支えとなる。一方、米州には買収先SCCの新規連結効果がある。SCCは食品ショーケースのメーカーで、2025年7月に取得し、前年の損益への連結は10〜12月だった。したがって、今回の上期比較には前年上期に存在しなかった売上・利益が加わる。2025年短信・本文18頁
「調整すれば好調」で終わらせない
上期の営業利益は30,480→32,705百万円へ7.3%増、調整後営業利益は33,886→39,330百万円へ16.1%増だった。後者では企業結合に係る償却費と超インフレ会計の影響を加え戻す。会社の利益ブリッジでは、当期の除外額はそれぞれ4,567百万円、2,056百万円。開示額の丸めにより合計には微差がある。中間説明資料・本文11〜13頁
調整後利益の増加には、売上増減による10,797百万円の押上げがある一方、売上総利益率の変動で1,254百万円、販管費増減で4,155百万円の押下げもあった。売上増が費用増を上回ったのであって、すべての採算指標が改善したわけではない。これらは会社の調整後ブリッジであり、会計上の粗利益率・販管費率とは混ぜない。
米州の会計上のセグメント利益は4,764百万円で前年同期比16.8%減、調整後では7,636百万円で33.3%増となる。償却はその期の現金支出ではないため、日々の事業採算を読む際に調整する意味はある。しかし買収時には現金を支払っている。償却を除外した利益が増えても、買収価格を回収できたことにはならない。中間短信・本文2、9〜10頁
SCCの取得原価は56,099百万円。2025年末時点ののれん54,040百万円は取得原価配分が完了していない暫定値だった。現在の製品別増収だけからSCCの独立した投資利回りを逆算することはできない。共同調達、販売網の共有、他ブランドとの提案が、追加費用を上回る回収につながるかが重要だ。2025年短信・本文18〜19頁
利益の次は、運転資本と現金を見る
2025年の営業CFは30,528百万円と前年の47,344百万円から減った。退職給付信託の設定による8,650百万円の支出に加え、棚卸資産の増加8,963百万円などが影響した。減少をすべて販売不振に結び付けるのも、信託設定だけを除いて問題なしとするのも不適切だ。2025年短信・本文11頁
本稿の「設備投資控除後CF」は営業CFから有形・無形固定資産の取得支出を引く簡易指標とする。2025年は30,528−8,865−2,192=19,471百万円。ここから子会社取得64,254百万円と事業譲受3,458百万円まで引けば、▲48,241百万円となる。これは全投資CFや株主還元後CFではなく、買収による資金負担の大きさを切り出した計算だ。会社資料のFCFは営業CFと投資CFの合計で、定期預金等も含むため別物である。
2026年上期は営業CFが13,541→29,098百万円へ改善した。売上債権・契約資産の増加による資金流出は15,726→11,528百万円、在庫増加による流出は6,073→1,493百万円に縮小。一方、契約負債増加による流入も2,682→5,016百万円へ増えた。契約負債は将来の履行義務を伴うため、自由に残り続ける利益と同一視しない。中間短信・本文7頁
同じ簡易指標では、上期の設備投資控除後CFは29,098−5,399−566=23,133百万円。ただし親会社配当9,202百万円と自己株式取得17,206百万円だけでも26,408百万円になる。営業CFの改善と、現金が積み上がることは別である。上期末の現金・預金は169,412百万円で前年末177,089百万円を下回るが、自己資本比率は67.0%。現段階で資金繰り危機を示す数字ではない。中間短信・本文4、7〜8頁
その後の資本取引も区別しておきたい。7月9日にはJAC系ファンドへの自己株式処分の払込みが完了し、発行諸費用概算控除後の調達額は約120.91億円だった。一方、2月決議の300億円上限の市場買付は、9月末までに約242.69億円を実施した。現金を受け取る自己株式の処分と、現金を使う買戻しは逆方向の取引であり、買戻し額だけを純還元と見なさない。いずれも上記の上期CFとは対象期間が異なる。7月9日払込完了/10月2日取得状況
どこまで改善すれば、成長の質が変わるか
8月時点の2026年会社予想は売上520,000百万円、営業利益55,600百万円、調整後営業利益68,200百万円、親会社純利益38,200百万円で据え置き。上期営業利益は通期予想の58.8%に達するが、上期の単純倍を通期見通しにはしない。中間短信・表紙および2頁
2029年に向けた会社目標は、売上6,500億円、新規M&Aを除く成長、調整後営業利益率15%、ROE14%。これは将来目標であり、確定した利益ではない。2025年ROEは10.1%だった。自己株買いで自己資本を減らすことでもROEは上がるため、営業利益率と資金回収の改善を一緒に見る必要がある。統合報告書2026・本文27〜28頁
会社はROICも管理指標にしている。統合報告書の定義は、税引後の調整後営業利益を、有形固定資産・のれん・使用権資産・無形資産・棚卸資産・営業債権から営業債務を差し引いた投下資本で割るものだ。ただし別資料のROICと定義をそろえた再計算はできていないため、本稿はROICの時系列や他社との数値比較を行わない。
以下は筆者の条件整理であり、確率を付けた業績予想ではない。
- 基準ケース:国内の更新・保守とアジアの拡大が続く一方、米欧の償却・人件費負担が残る。会社予想を出発点に、調整後利益だけでなく営業利益とCFの追随を確認する。
- 強気ケース:SCCと既存販路の共同提案・共同調達が進み、買収効果を除いても売上が増え、在庫・債権の回転が改善する。調整後利益と現金回収がそろって伸びれば、買収回収に対する評価を引き上げられる。
- 弱気ケース:設備更新が延期され、値上げが原材料・人件費に追い付かず、買収で増えた在庫・債権が滞留する。調整後増益だけで営業CFが伴わなければ、成長の評価を下げる。
感応度の目安として、会社予想売上520,000百万円を固定した場合、営業利益率1ポイントの差は5,200百万円の利益差になる。売上債権の回収が5日遅れると仮定すれば、520,000÷365×5=約7,123百万円の追加資金が必要になる単純計算だ。後者は全売上を掛売りとみなし、季節性や税金等を無視した粗いストレス試算であり、実際の資金流出予想ではない。
次の決算で見るのは、①買収・為替を除いた増収の持続、②米州の償却込み利益と調整後利益の両方、③在庫・売上債権と契約負債の増減、④SCCの取得原価配分と投資回収の追加開示だ。JACとの戦略的提携も改革支援の枠組みであり、提携の存在だけを成果と数えない。6月16日公式発表
ホシザキの強みは、厨房の現場へ入り込めることにある。しかし株主にとっての成果は、その接点と買収資産が、追加資本に見合う現金を生むかで決まる。本稿では現在株価を用いた割安・割高の判断は行っていない。事業の改善可能性と、買う価格の魅力は別に検討する必要がある。