Halmaは何を積み上げてきた会社か
火災検知、水質測定、医療機器、光学部品。英国のHalma(ハルマ)は、生活や産業の安全を支える専門企業の集まりだ。各社が顧客に近い場所で経営し、本社が資金と人材を配分する。大型の単一製品ではなく、小さな専門市場を複数持つことで成長してきた。
結論は、既存事業の成長と買収を再投資でつなぐ力は確認できるが、「分散企業だから特定顧客に左右されない」とは言えなくなっている、ということだ。2026年3月期は全3部門で有機増収だった一方、1社の大手クラウド顧客が連結売上高の20%を占めた。光技術の成長と、それ以外の事業の稼ぐ力を分けて読む必要がある。
また、利益率上昇はすべて日常の製品販売によるものではない。一時的なライセンス取引を除くこと、買収代金を含めた資本回収を見ることが重要だ。事業の質が高いことと、現在の株価で十分なリターンが得られることは別問題である。
情報基準日は2026年10月31日。確定通期は2026年3月期、最新の業績更新は9月24日。2026年9月期の半期決算は11月19日公表予定であり、以下の2027年3月期見通しは実績ではない。2026年決算、5・8頁/9月24日更新、1–3頁
利益の源泉は、専門性と分権経営
主な領域は、安全、環境・分析、ヘルスケアの3つ。安全では火災・ガス検知や設備の安全確保、環境・分析では水質・漏水の測定や光学技術、ヘルスケアでは検査・治療を支える機器を供給する。
Halmaは買収後の会社を一律に統合するより、経営の自主性を残す。本社・部門・事業会社という3層で、事業会社に顧客対応や製品開発の責任を持たせる。専門市場の知識を維持しながら、グループが資金、採用、買収、技術面を支える設計だ。会社は買収基準として、参入障壁、高い利益率と資本収益性、低い資本集約度、文化的な適合などを挙げている。年報、26–27頁
筆者の解釈では、強みは「危険を防ぐ製品だから高く売れる」という単純な価格決定力ではなく、顧客の用途に合わせた設計、信頼性、導入後の実績を積み重ねることにある。ただし、認証や安全上の要求は開発費や責任も増やす。規制強化を無条件の増益材料にしてはいけない。
競争相手は市場ごとに異なる。例えば水質測定・処理ではVeralto傘下のHachやTrojan Technologiesも事業を持つ。これは用途が重なる比較対象という意味であり、すべての製品が直接競合するとの断定ではない。Halma全体の利益率を、水事業だけ、あるいは光部品だけの他社と比べても優劣は確定できない。Veraltoの水関連事業
5年間の成長は、利益率だけでは説明できない
以下は3月末を期末とするIFRS連結実績。金額は百万ポンド、利益率とROTICは会社の調整後指標である。ROTICは後述する独自定義で、一般的なROICと同一ではない。
| 3月期 | 売上高 | 調整後税引前利益 | 調整後EBIT利益率 | 調整後ROTIC |
|---|---|---|---|---|
| 2022年 | 1,525.3 | 316.2 | 21.3% | 14.6% |
| 2023年 | 1,852.8 | 361.3 | 20.4% | 14.8% |
| 2024年 | 2,034.1 | 396.4 | 20.8% | 14.4% |
| 2025年 | 2,248.1 | 459.4 | 21.6% | 15.0% |
| 2026年 | 2,582.3 | 564.5 | 23.0% | 16.2% |
出典は2026年6月24日公表の年報240–241頁(PDF242–243頁)。過年度を含む会社の最新集計を用いた。買収・売却による事業範囲の変化を含むため、同じ事業群だけの成長ではない。
2022年から2026年までの4年間の売上高CAGRは約14.1%、調整後税引前利益は約15.6%となる。これは終点÷始点を4分の1乗して1を引く独自計算だ。5つの年度を掲載しているが、成長区間は4年間である。利益率は2023年に下がっており、毎年一方向に改善してきたわけではない。
2026年3月期の増収率14.9%は、会社の増減分析では有機成長16.6%、買収2.5%、売却−1.5%、為替−2.7%という構成。丸めを含むため単純合計と公表伸び率には差がある。「有機」は為替換算、買収後1年間の買収効果、売却の影響を除く指標で、数量だけを意味しない。平均1〜2%の値上げも含まれる。残りをすべて数量増と置くと、製品構成や一時収入まで数量に混ぜてしまう。決算8頁、52頁
成長は広い。しかし大口顧客への集中も進んだ
2026年3月期の部門別実績は次の通り。利益は本社費配賦前の調整後部門利益であり、連結の調整後EBITと直接合計一致するわけではない。
| 部門 | 売上高・百万ポンド | 有機増収率 | 調整後部門利益・百万ポンド |
|---|---|---|---|
| 安全 | 947.5 | 6.5% | 253.6 |
| 環境・分析 | 1,037.7 | 35.7% | 250.6 |
| ヘルスケア | 598.4 | 6.3% | 143.1 |
売上には部門間消去−1.3百万ポンド、部門利益合計647.3百万ポンドには本社費−52.8百万ポンドを反映すると、連結売上2,582.3百万ポンド、調整後EBIT594.5百万ポンドになる。決算9頁
突出した環境・分析部門の背景にはAvo Photonicsがある。会社によれば、10年以上関係が続く大手クラウド顧客と、複数世代の光スイッチを共同設計・製造してきた。その顧客の売上構成比は2025年3月期15%から2026年3月期20%へ上昇した。顧客名は機密として開示されておらず、特定企業への納入を推定で補わない。決算5頁、19頁
ここには両面がある。長期の共同開発は、単に汎用品を売るより顧客との関係を深くする可能性がある。一方、顧客側の設備投資、製品世代の切替え、内製化や別方式の採用が、グループ全体の成長率に影響しやすくなる。
感応度を示すと、売上構成比20%を固定し、その顧客向け売上だけが10%増減すれば、連結売上への機械的な影響は約±2%になる。これは20%×±10%という独自の静的試算で、実際の予想ではない。他の売上・為替・買収などを一定とする機械計算で、利益率や設備稼働率の変化をモデル化していないため、利益の変化にはそのまま置き換えられない。
調整後でも残る一時利益と、現金の確認
2026年3月期の調整後EBITは594.5百万ポンド、法定の税・利息前利益は520.7百万ポンドだった。差73.8百万ポンドは、買収関連無形資産の償却・減損63.2、買収関連項目4.4、事業処分などの損失6.2からなる。買収で増える企業を評価する際、償却が非現金でも、買収代金そのものが消えたわけではない。決算8頁、53頁
さらにNuvonicが中国などでの商標・製造・販売に関する権利を付与した取引では、売上9.9百万ポンド、調整後利益9.3百万ポンドを一時的に認識した。同日に相手方の35%持分を9.9百万ポンド相当(9,500万元)で取得している。この利益は会社の「調整後」にも残る。取引に問題があると断定する材料ではないが、通常の製品販売と同じ持続性は置けない。
この取引を除くと、連結売上は2,572.4百万ポンド、調整後EBITは585.2百万ポンド、利益率は22.7%。それでも前年の21.6%を上回る。一方、環境・分析部門では、一時取引込みの利益率24.1%に対し、除外後は23.5%で前年23.9%を下回った。全社の改善と、最大増収部門の基礎的な利益率低下は両立する。決算1–2頁、19–20頁
現金面では、税払い後の営業活動によるキャッシュフローは492.4→480.6百万ポンドへ減少。運転資本は前期の29.6百万ポンドの流入から、66.3百万ポンドの流出へ変わった。増益がそのまま現金増に結び付かなかった理由の一つだ。
会社の調整後キャッシュ転換率は112%→93%だが、分子は税などを調整した独自の営業キャッシュフロー550.2百万ポンド、分母は調整後営業利益593.4百万ポンド。税払い後の営業CFや、調整後EBIT594.5百万ポンドを分母にする計算とは異なる。決算14–15頁、53頁
買収を続けるなら、ROTICと負債を同時に見る
2026年3月期の事業取得関連支出は469.1百万ポンドで、前年167.9百万ポンドから大きく増えた。取得時の現金・債務、費用などを含むこのキャッシュフロー側の金額は、当期に成立した5件の最大買収対価447百万ポンドと定義が違う。混同して差を誤記と扱わない。
純有利子負債は535.8→769.1百万ポンド、調整後EBITDAに対する比率は0.97→1.16倍へ上昇した。純負債には107.8百万ポンドのリース負債を含む。会社の通常運営上の目安である2倍以内と、融資契約の上限3.5倍は別の基準である。余力があることは、次の買収の採算を保証しない。決算14–15頁
2026年3月期の調整後ROTIC16.2%は、調整後税引後利益430.7百万ポンド÷平均投資資本2,660.4百万ポンド。分母は自己資本を出発点に、取得無形資産の累積償却・減損、過去ののれん調整などを戻して求める。税引後営業利益を、純有利子負債と自己資本から求めた投下資本で割る一般的なROICではない。 同じ会社の推移には使えるが、他社ROICやWACCと無調整で比べない。決算54頁
9月24日時点では、新年度の買収は6件、最大対価515百万ポンド、売却は3件で費用控除後約83百万ポンド。ここでも515はすべての現金が既に流出した額とは限らない。年度末の1.16倍を9月末の借入比率として流用せず、次の貸借対照表とCFで確認する。9月更新、1–3頁
何が起きれば評価を変えるか
9月時点の2027年3月期会社見通しは、為替一定・有機ベースで売上成長率が10%台前半、調整後EBIT利益率は23.5〜24%。6月の一時要因除外後22.7%程度から利益率を引き上げた。会社は各部門の運営改善と製品・事業構成、買収・売却の影響を理由に挙げる。全体の売上成長見通しには、光技術事業の「通常成長を超える寄与」約5ポイントが含まれる。これは光技術の売上比率でも、同事業の伸び率5%でもない。9月更新、1–2頁
以下は株価予想ではなく、筆者が置く検証シナリオである。
- 強気の条件:光技術の伸びが続く間に、他事業の有機成長と買収先の収益が積み上がり、運転資本の増加を吸収して現金化できる。買収増加後も会社定義のROTICが維持される。
- 基準の条件:会社の有機成長・利益率見通しに沿う。光技術の高成長は恒久的とせず、買収・売却と為替を別計算する。現時点では新年度の確定売上や半期CFがないため、独自の通期利益額は作らない。
- 弱気の条件:大口顧客の発注や製品切替えで光技術の成長が鈍化する一方、買収代金と運転資本負担が先行する。報告利益率が保たれても、有機成長、現金化、買収後の収益率が同時に弱くなるなら、成長の質に対する見方を下げる。
次の11月19日の半期開示で確認したいのは、①光技術の成長寄与と顧客集中、②光技術以外の有機成長、③一時要因を除く部門利益率、④売掛金・在庫と営業CF、⑤買収後の純負債と資本収益性である。大口顧客の利益率や製品別の数量・単価は未開示で、受注の強さから利益額を逆算することはできない。
Halmaを評価する軸は、光技術の追い風を専門事業全体の持続的な利益に変えられるかだ。現在株価と比較可能な市場予想は本稿では確認しておらず、割安・割高や買い時の結論は置かない。