ディスコは、半導体を切り分け、薄く削り、磨く装置と消耗品の会社だ。AI向けの増産は追い風だが、装置を出荷した時、顧客が受け入れて売上になる時、代金を受け取る時は一致しない。足元の利益と現金創出は強い。ただし、現金の急増には前受金などの時期要因も含まれる。出荷だけでも営業CFだけでも、需要の持続力は測れない。
情報基準日は2026年10月25日。対象はディスコ(6146)の日本基準・連結決算。金額は原則億円。会社資料のFY2026は2026年4月〜2027年3月であり、暦年2026年ではない。最新決算は10月22日公表の2027年3月期中間期だ。
装置を売った後にも、加工が続けば需要が生まれる
装置にはダイシングソー、レーザーソー、グラインダなどがある。刃や砥石は加工に使う消耗品だ。装置の導入は顧客の設備投資、消耗品の使用は顧客の生産稼働に結び付く。この二つの需要を持つことが、ディスコを理解する入口になる。
競争力の核は、装置単体の精度に加え、材料ごとの加工条件、消耗品、試験加工、保守を組み合わせて良品を安定して作る仕組みだと考えられる。顧客が既存工程を変更するには品質と生産性の再確認が必要になる。その蓄積は参入障壁になり得るが、永久的な囲い込みではない。会社の事業説明・Four Business Fields(公表日記載なし、10月25日確認)
比較相手として、東京精密はブレード・レーザー式ダイシング装置とポリッシュグラインダを販売している。重なるのは切断・薄化という加工工程であり、東京精密の計測器やプローバまで含む全社利益率を、そのままディスコの加工事業と比較すべきではない。競争を見る単位は、対象材料、欠けや損傷、加工速度、消耗品寿命、保守費用をそろえた顧客の総コストだ。本稿では同一定義の市場シェアや工程別採算を確認できておらず、数値による優劣は置かない。東京精密・ダイシング装置、ポリッシュグラインダ(両ページ公表日記載なし、10月25日確認)
5年の拡大を、利益と現金で確認する
以下は各年4月〜翌年3月の通期実績。純利益は親会社株主帰属、CFはキャッシュフローで、半期やTTMを混ぜていない。
| 3月期 | 売上高 | 経常利益 | 純利益 | 営業CF |
|---|---|---|---|---|
| 2022 | 2,537.81 | 924.49 | 662.06 | 836.54 |
| 2023 | 2,841.35 | 1,123.38 | 828.91 | 817.83 |
| 2024 | 3,075.54 | 1,223.93 | 842.05 | 975.24 |
| 2025 | 3,933.13 | 1,689.43 | 1,238.91 | 1,203.64 |
| 2026 | 4,368.89 | 1,849.36 | 1,355.21 | 1,335.43 |
出所:2026年6月16日提出・有価証券報告書PDF4ページ、連結経営指標。経常利益には営業外損益が入るため、本業の採算を見る営業利益とは区別する。売上と現金創出は長期で拡大したが、毎年同じ速度ではない。2023年3月期は増収増益でも営業CFが前年を下回った。成長企業でも、在庫、支払条件、納税で現金化は揺れる。
2026年3月期の営業利益は1,849.89億円、営業利益率は42.3%。会社は先端ロジック・HBM向けの強さと、パワー半導体需要の弱さを併記している。「半導体全体が一様に好況」という説明では不十分だ。4月22日公表・通期決算資料PDF1、3ページ
上期増益は、数量だけでなく構成と為替も見る
| 4〜9月の連結実績 | 2025年 | 2026年 |
|---|---|---|
| 売上高 | 1,945.37 | 2,570.58 |
| 営業利益 | 788.71 | 1,166.39 |
| 親会社株主帰属純利益 | 559.13 | 803.66 |
売上高は前年同期比32.1%増、営業利益は47.9%増。営業利益率は40.5%から45.4%に上がった。10月22日公表・中間決算短信PDF1、6ページ
会社説明では、生成AI向けを中心とする出荷と検収の進展、高付加価値製品、為替が寄与した。消耗品は顧客稼働率などを背景に7〜9月の出荷が過去最高になった。一方、人件費と研究開発費も増えた。したがって増収分をすべて数量増、増益分をすべて値上げ効果とする分解はできない。数量・単価・製品構成・為替それぞれの円単位の寄与は未確認だ。10月22日公表・説明資料PDF3、11ページ
出荷は売上の先行情報になるが、検収の時期で四半期の売上は動く。さらに出荷時に入金を受ける取引もあり、売上計上前の入金は契約負債になる。契約負債の増加は将来の履行義務も増えたということだ。受注残や、取消不能な将来利益と同一視しない。説明資料PDF4、12ページ
営業CFの急増を、そのまま実力の増加率にしない
2026年4〜9月の営業CFは1,117.08億円で、前年同期396.83億円を上回った。税引前利益の増加に加え、契約負債増加による流入298.72億円、仕入債務増加による流入90.11億円があった。一方、在庫増加は194.96億円の流出だった。納税支出も前年より少ない。利益の現金化は確認できるが、前受け・仕入代金・税金のタイミングによる押し上げを翌期も繰り返すとは置かない。中間決算短信PDF7ページ
ここで独自に定義するFCFは「営業CF−有形固定資産取得支出−無形固定資産取得支出」。上期は1,117.08−128.96−0.59=987.53億円となる。借入返済や配当、買収、定期預金への振替まで差し引いた金額ではない。同じ期間の配当支払407.68億円はこの範囲内だった。中間決算短信PDF7ページ
会社が示すFCFは営業CFと投資CFの合計で、上期568.93億円。投資CFに定期預金への418.44億円の資金移動が入るため、上の独自FCFとは大きく異なる。公表値は百万円未満を切り捨てるため、表示された営業CFと投資CFの単純合計とは0.01億円の差がある。会社数値を誤りとせず、定義と端数を区別する。説明資料PDF13ページ、中間決算短信PDF7ページ
通期でも同じ点が重要だ。2026年3月期は営業CF1,335.43億円から有形351.43億円、無形0.84億円の取得支出を引くと、独自FCFは983.16億円。会社定義のFCFがマイナスだったのは、定期預金への1,000億円の預入れを含むためで、これだけで本業が現金を失ったとはいえない。通期決算資料PDF4、8ページ
高い資本効率を、次の設備投資で維持できるか
2026年3月期のROEは25.1%。計算は、親会社株主帰属純利益1,355.21億円÷[(期首自己資本4,911.66億円+期末自己資本5,865.74億円)÷2]×100=約25.1%。期首・期末平均の自己資本に対する利益率であり、設備投資案件そのものの収益率ではない。現金の蓄積も分母を増やすため、純利益が増えてもROEは下がり得る。2025年3月期の27.6%から低下したことだけで競争力の悪化とは判断できない。4月22日公表・日本語短信PDF1ページ
10月22日時点の会社計画は、2027年3月期の設備投資約330億円、研究開発費約380億円。工場や研究開発拠点への投資を進める。設備投資計画とCF計算書の取得支出は、計上・支払時期や範囲が異なるので直接一致させない。研究開発の費用は利益と営業CFの計算に既に反映され、独自FCFから再度全額を引けば二重計上になり得る。説明資料PDF16、17ページ
還元は、半期純利益に連動する配当と、必要資金を確保した後の追加配当を組み合わせる。基本となる配当性向は半期純利益の25%、追加配当は余剰資金の3分の1が目安。研究開発・設備や技術獲得の資金需要が増えれば、追加配当の余地も変わる。買収による成長を前提にせず、技術獲得が実際に行われた場合は取得額と効果を別途検証したい。配当方針(公表日記載なし、10月25日確認)
成長の条件と、見方を変える確認点
強気の条件は、AI関連の加工量増加が装置導入と消耗品需要の両方に続き、新しい設備が稼働しても採算と回収を保てること。弱気の反証は、顧客の設備投資延期、加工方法の変化、競合への工程移管、在庫増、円高や費用増が重なることだ。消耗品の継続需要も顧客が加工を続けることが前提であり、固定契約のような収入とは扱わない。
- 出荷と検収売上が離れた場合、検収遅延か新規出荷の加速かを区別する。
- 消耗品の出荷と顧客稼働が伸びているか、装置だけの増産になっていないかを確認する。
- 契約負債・在庫・仕入債務を追い、前受けが減った後も営業CFが残るかを見る。
- 工場・研究開発投資が加工能力と顧客採用に結び付き、増えた資産に見合う利益を生むかを確認する。
最新の会社予想は2026年4〜12月累計の売上3,895億円、営業利益1,747億円であり、通期予想ではない。上期の増益率をそのまま通期に延ばすことはしない。中間決算短信PDF1ページ
独自の感応度として、上期売上2,570.58億円が同じなら、営業利益率が1ポイント変わると営業利益は約25.71億円変わる。これは価格・構成・為替・固定費を別々に予測したモデルではなく、利益率変化の大きさを測る算術例だ。事業の強さは確認できても、今の株価が織り込む成長と比較しなければ投資妙味は決められない。本稿では基準日に整合した株価・市場予想の評価を行っておらず、割安・買い時とは結論づけない。
本稿は公開情報を使った分析であり、特定銘柄の売買を勧めるものではありません。会社予想と独自の試算は実績と区別しており、将来の利益や投資成果を保証しません。