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MARKET NOTE RESEARCH

ASSA ABLOY 既設の扉を成長につなぐ力と買収資本の重さ

鍵・電子認証・自動ドアの更新需要を入口に、5年の業績、最新決算、現金の使途、買収後の資本効率を検証。事業の強さと株主に残る価値を分けて読む。

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情報基準日:2026-10-27(公開日とは異なります)

情報基準日:2026年10月27日。金額は特記なき限り百万スウェーデンクローナ(SEK)。2026年7〜9月期は同日08:00 CET公表の決算本文まで反映した。年次比較は12月期、四半期比較は前年同期間である。

どのような会社か

ホテルでカードをかざして部屋に入る。病院では職員だけが薬品庫を開け、物流施設では搬入口の扉が止まらずに動く。住宅の鍵も含め、建物の入口を安全に使い続けるための製品とサービスを供給するのが、スウェーデンのASSA ABLOYだ。機械式の錠前だけでなく、電子錠、本人認証、入退室管理、自動ドアまでを扱う。Yale、Kwikset、HID、VingCardなどを傘下に持つが、製品ブランドと販売地域は一様ではない。

投資対象としての魅力は、建物が完成した後にも仕事が残ることにある。鍵の摩耗、利用者の交代、セキュリティーの更新、扉の保守が需要を生む。会社によると売上の約3分の2が既存建物向けの更新・交換・サービス等、約3分の1が新築向けである。ただし、更新需要が多いことと、売上の大半が解約しにくい定額契約であることは別だ。景気が悪ければ改修は延期され、住宅市場の弱さも利益に届く。年次報告書2025 pp.25–26

本稿の判断は、既設設備を電子化し、サービスを重ねる事業の質は高い一方、企業買収に投じた資本の回収まで確認して初めて、その成長を評価できるというものだ。直近は利益率が上がっている。しかし、買収を重ねる企業では、調整後利益の増加、税金や設備投資を払った後の現金、のれんを含む資本効率を分けて読む必要がある。

売り切りの製品が次の受注につながる仕組み

競争力の土台は、既存の錠前や認証システムに加え、建築設計への採用、販売店、施工業者、鍵業者、保守技術者との関係である。安全性、使い勝手、既存設備との適合、交換作業の手間を考えると、顧客は部品価格だけで仕入先を変えにくい。これは当社の事業構造からの分析であり、全案件で競争が弱いという意味ではない。新築案件では入札や価格競争があり、開放的な技術規格は顧客の選択肢も広げる。年次報告書2025 pp.25–30

電子化は単価上昇だけの話ではない。遠隔で入室権限を変更できれば、鍵を配り直す作業が減る。入退室履歴を残せれば、管理や監査に利用できる。接続されたドアを予防保全できれば、故障時の停止を減らせる。こうした便益が、機器の更新、ソフトウエア利用、認証情報、サービス契約へと広がる。ただし電子化には、サイバー攻撃、システム停止、互換性、継続的なソフトウエア更新という新しい費用と責任も伴う。年次報告書2025 pp.29–30

事業は、地域別のOpening Solutions EMEIA、Americas、Asia Pacificと、世界展開するGlobal Technologies、Entrance Systemsに分かれる。前者は錠前やドア関連製品、Global TechnologiesはHIDなどの認証・アクセス管理、Entrance Systemsは自動ドアとサービスが中心だ。商業施設や公共施設、住宅、物流施設では需要の周期が違う。全社成長率だけでは、この分散の効き方は分からない。年次報告書2025 p.122

5年間で規模は拡大したが成長の中身は変わった

以下の「調整後」は比較可能性に影響する項目を除いた会社指標で、IFRSの営業利益と区別する。「会社営業CF」もキャッシュフロー計算書の営業活動CFとは異なる。

指標2021年2022年2023年2024年2025年
売上高95,007120,793140,716150,162152,409
オーガニック成長率11%12%3%−1%3%
買収・売却による純増率2%2%8%8%5%
IFRS営業利益14,18118,53221,78524,27523,151
調整後営業利益14,18118,53222,18524,29624,664
調整後営業利益率14.9%15.3%15.8%16.2%16.2%
営業活動CF12,45614,35721,29421,39121,412
会社営業CF13,26515,80825,23223,05222,660
のれん62,50275,87392,873106,874101,119
会社ROCE15.2%16.9%15.6%14.4%14.2%
純有利子負債/EBITDA1.5倍1.4倍2.3倍2.3倍2.1倍

出所:年次報告書2025 p.161、定義p.163。オーガニック成長率は買収、売却、為替の影響を除く比較可能な事業の売上変化であり、販売数量だけの変化ではない。

2021〜2022年の回復局面と、その後の住宅市場の減速を平均化してしまうと、企業の実力を読み違える。2023年には北米住宅向けを強めるHHIを買収し、それに伴ってEmtekと米国・カナダのSmart Residential事業を売却した。連結範囲が変わっているため、長期の売上増をそのまま既存事業の成長とは呼べない。年次報告書2025 p.162

2025年の売上変化は、会社の丸めた成長率で、オーガニック+3%、買収・売却+5%、為替−7%、合計+1%だった。基礎事業の改善をクローナ換算が隠した面がある。一方、IFRS営業利益は23,151へ減少し、調整後営業利益は24,664へ増加した。両者の差1,513は無視できない。会社は主に再編費用と過去の事業売却に伴う費用を調整している。調整後利益は事業の推移を見る助けになるが、株主が最終的に負担する費用が消えるわけではない。年次報告書2025 p.120、Q3 2026 p.12

会社の景気循環を通じた目標は、売上成長10%をオーガニック5%と買収5%で構成し、営業利益率を16〜17%とするものだ。これは2026年の会社業績予想ではない。目標どおりの成長を評価の前提に固定すると、買収資金と統合リスクを軽く見積もることになる。年次報告書2025 p.28

直近の改善は為替と買収だけではない

2026年7〜9月の売上は40,771、前年の38,146から増加した。増分2,625の内訳は、オーガニック1,428、買収・売却935、為替262である。9カ月累計では、前年114,102にオーガニック3,568、買収・売却2,623、為替−4,512が加わり、115,781となった。四半期の為替は追い風に転じたが、累計ではまだ逆風だった。Q3 2026 p.1

指標2025年7〜9月2026年7〜9月
売上高38,14640,771
オーガニック成長率3%4%
調整後EBIT6,4167,102
調整後EBIT利益率16.8%17.4%
調整後EBITA6,8157,612
調整後EBITA利益率17.9%18.7%
調整後EPS(SEK)3.734.24
会社営業CF6,9697,405

出所:Q3 2026 pp.1、9、12。2026年7〜9月には比較可能性調整項目がなく、EBIT・EPSの調整後とIFRS値は一致する。2025年7〜9月のIFRS営業利益は6,429、IFRS EPSは3.74であり、表の調整後値とは異なる。EBITAは買収由来の無形資産償却等を除く会社指標で、EBITと混同しない。

会社は利益率改善を価格実現とコスト効率に結び付けている。ただし、オーガニック+4%のうち何ポイントが数量、価格、構成変化なのかは、今回確認した本文だけでは分離できない。値上げが効いたことを、出荷数量も同率で増えたことに置き換えてはいけない。Q3 2026 pp.2–3

事業部2026年7〜9月オーガニック成長率同EBIT利益率同時点の会社ROCE
Opening Solutions EMEIA5%15.8%16.7%
Opening Solutions Americas6%19.6%13.7%
Opening Solutions Asia Pacific−1%9.8%6.8%
Global Technologies4%20.0%15.3%
Entrance Systems3%17.1%18.6%

出所:Q3 2026 p.4。利益率は比較可能性調整後。ROCEは四半期利益を単純に4倍した値ではなく、会社定義の直近12カ月利益と平均調整後使用資本による指標である。

米州の非住宅需要は強く、住宅も改善した。一方、Asia Pacificは中国などの弱さが残る。Entrance Systemsでは歩行者向けや敷地周辺のセキュリティーが伸びたが、産業向けは減収だった。広い製品構成はリスクを分散するが、すべての部門が同じ構造的成長を享受しているわけではない。また、米州は高い利益率の割にROCEが低い。利益率だけでなく、買収で積み上がった資本を含めて稼ぐ力を見る必要がある。

利益が現金になるまで

まず名称の違いが重要だ。会社の「Operating cash flow」は、営業活動CFから税金支払いと再編支払いを除き、純設備投資とリース元本返済を差し引く。したがって税引後の自由な現金とは違う。「Cash conversion」の分母も純利益ではなく、比較可能性調整後の税引前利益である。2026年7〜9月の117%という会社表示は、7,405を税引前利益6,333と比較したものだ。Q3 2026 pp.3、19

本稿では比較のため、税金支払い後の営業活動CFから、資産売却を相殺しない設備・無形資産取得の現金支出と、リース元本返済を控除した金額を「独自定義FCF」とする。M&A、配当の前であり、会社指標ではない。

現金の使途2024年2025年
営業活動CF21,39121,412
設備・無形資産取得の現金支出−2,562−2,773
リース元本返済−1,797−1,968
独自定義FCF17,03216,671
子会社取得・売却の純現金支出−11,676−10,574
配当支払い−5,999−6,563

出所:年次報告書2025 p.127。FCFは上の3行の合計、子会社取得・売却の純額は取得支出に売却収入を加えた本稿計算。資産売却収入はFCFに含めない。

2025年の独自定義FCF16,671に対し、純M&A支出と配当の合計は17,137で、466上回った。これは資金繰り危機を示す数字ではないが、「高いキャッシュ創出が、そのまま余剰資金として積み上がる」という説明は成り立たない。買収を続けるための余力は、稼得力と買収価格の両方に左右される。

2025年末の純有利子負債は70,253から64,277へ5,976減ったが、会社の負債増減表では「為替差額等」が8,352の減少要因だった。負債残高の減少をすべて営業現金による返済と評価してはいけない。換算の効果は逆向きにも働く。年次報告書2025 p.126

直近累計の現金は改善している。2026年1〜9月の営業活動CFは17,631で、前年14,001から3,630増えた。このうち税金支払いの減少が1,037、運転資本の流出縮小が1,181、合計2,218を説明する。増分の約61%に当たり、利益成長だけの成果ではない。税支払いの時期や運転資本の正常化を、毎年繰り返せる増益と区別しておきたい。Q3 2026 p.11

在庫残高や売掛金は為替と買収でも増減するため、期末残高だけから回収悪化を断定しない。今後は比較可能ベースの在庫滞留、売掛金回収、買掛金の支払い、サービス比率を合わせて確認する。成長していても、納期確保のため在庫が増え続けるなら、利益から現金への変換は弱まる。

買収と資本効率を一緒に評価する

2026年9月末ののれんは112,230、その他無形資産は39,836で、合計152,066は総資産234,774の64.8%に相当する。これ自体が損失を意味するわけではない。ブランド、顧客関係、技術を買ってきた企業の特徴だ。ただし将来の利益が購入時の想定を下回れば、経済的な投資回収の不足が先に生じ、会計上の減損は後から現れ得る。Q3 2026 p.10

2026年1〜9月の買収価格は、過年度の買収に係る調整を含み、現金・負債を除く基準で5,876。暫定的な取得配分では、のれんと耐用年数が無期限の無形資産が4,256だった。両者を企業全体ののれん増加額と直接一致させない。為替換算、過年度案件の調整、有限の無形資産などが別に存在するからだ。Q3 2026 p.5

会社ROCEは、比較可能性調整後の直近12カ月EBITを、再編引当金の影響を除く平均使用資本で割った税引前指標で、分母にのれんを含む。2025年末14.2%から2026年9月末14.9%へ改善したが、2022年の16.9%には届いていない。税引後営業利益(NOPAT)を平均投下資本で割る一般的なROICとは定義が異なる。会社ROCEをそのまま税引後WACCと比較して「価値創造の幅」とは呼べない。個別買収のROICについても、案件別の税引後利益や統合投資を確認できないため算定しない。年次報告書2025 pp.161、163、Q3 2026 pp.13、19

9月末の純有利子負債は64,212、会社の純有利子負債/EBITDAは2.0倍だった。この負債定義にはリース債務、年金引当金、デリバティブ等も含まれ、銀行借入から現預金だけを引く計算とは異なる。継続的な買収を前提とする以上、倍率の低下だけでなく、金利負担、返済期限、将来の取得対価を見たい。Q3 2026 pp.13、19

ポートフォリオは拡大一辺倒でもない。Gunnebo Entrance Controlの買収は契約済みで、規制承認等を条件に2026年10〜12月の完了を予定する。HIDのPKI事業はVistaへの売却契約を10月16日に発表した。PKIにはSaaS型の認証関連事業も含まれる。電子化の成長物語だけを理由に、すべてのデジタル事業を永久保有するわけではない。未完了案件の利益寄与や売却代金は、本稿では織り込まない。Q3 2026 p.5、PKI売却契約発表

競合と比べて何が言えるか

同じ2026年7〜9月で比べると、オーガニック成長率はASSA ABLOYが4%、Allegionが7.2%。米州部門ではそれぞれ6%、9.1%だった。米州非住宅市場の強さは両社に共通しており、ASSA ABLOYだけの独占的な成長とは見ない。ただし地域内の住宅・非住宅構成、製品、販売経路が違うため、この差から市場シェアの変化を直接計算することはできない。ASSA ABLOY Q3 pp.1、4、Allegion Q3 pp.1–2

利益率の比較にはさらに注意がいる。Allegionの同四半期の米国GAAP営業利益率は24.3%、調整後は24.7%だった。GAAP利益には関税還付による営業利益19.9百万米ドルの押上げが入り、調整後ではその効果を除く一方、買収関連償却等を加算する。ASSA ABLOYのIFRS EBIT利益率17.4%と単純に差し引いて、経営の優劣を決めることはできない。ASSA ABLOYは自動ドア、住宅、中国等も抱え、事業構成が違う。Allegionの収益性は有力な比較材料だが、調整項目と事業の混合比率をそろえる作業が先になる。Allegion Q3 pp.1–3、非GAAP調整表

もう一社のdormakabaは、2025年7月〜2026年6月期にオーガニック+3.0%で、価格+2.6%、数量+0.4%と説明した。これはASSA ABLOYの最新四半期とは期間が違うため、成長順位には使わない。むしろ、同じアクセス関連企業でも、オーガニック成長の大部分が価格から生まれ得るという確認材料になる。またdormakabaのROCEはのれんを除く使用資本を用いるため、ASSA ABLOYの会社ROCEとは直接比較しない。dormakaba年次報告2025/26 業績、指標定義

成長仮説が成立する条件と崩れる兆候

基本シナリオは、既存の扉・鍵・認証設備の更新を続け、電子化やサービスによる顧客便益を価格に反映し、効率化で利益を残すというものだ。景気の強い回復だけに依存しない点は魅力になる。ただし、設備の電子化が進むほど必ず高収益になるとは限らない。ソフトウエア開発、技術者、セキュリティー対策の費用を吸収できる導入規模と継続利用が必要だ。

上振れを確認する材料は、値上げだけではない数量・更新需要の改善、サービス契約への移行、住宅需要の安定、買収後の利益率と資本回転の改善である。その結果として、税金支払い後のFCFと、のれんを含むROCEがともに改善するなら、利益の質に対する確信を強められる。

逆に仮説を弱めるのは、既存事業の低成長を買収だけで補う状態、電子製品の伸びに対してサービス収益や利益が追い付かない状態、在庫・売掛金の増加が続く状態である。利益率が維持されてもROCEが下がり続ければ、取得価格や統合投資に見合う利益を得られていない可能性がある。顧客流出やサイバー障害も、信頼と更新需要に依存するモデルでは重大だ。

短期の見方も整理しておく。会社は9月末時点の情報に基づき、2026年10〜12月の売上に、完了済み買収・売却が約+2%、為替が約+5%寄与するとした。これはオーガニック需要や全社業績の予想ではなく、機械的なモデル作成用の情報である。同時に新しい生産拠点再編計画を10〜12月に始める予定で、費用と現金支出の確認が必要になる。為替を含む見かけの増収率だけで、需要回復を判断しない。Q3 2026 pp.3、7

結論として、見るべきなのは「鍵を何個売るか」だけではなく、既設設備を次の更新とサービスへつなげ、その現金を適切な価格で再投資できるかである。 ASSA ABLOYはその循環を持つ企業だが、のれんを含む資本効率と買収後の現金まで追うことで、事業の強さと株主に残る価値を区別できる。現在株価と整合する日時付き評価倍率は本稿では確定しておらず、事業の評価を株価の割安判断へはつなげていない。

読み方の留意点

2026年7〜9月報告は監査人によるレビューを受けていない。将来の条件分岐は本稿の分析であり会社予想ではない。年次の5期間は比較範囲であって、買収・為替を除く同一事業の5年間追跡ではない。継続課金売上の正確な比率、解約率、顧客維持率、個別買収の投資収益率は確認できず、定量評価に使っていない。Q3 2026 p.7